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2019.3.1

「支援者の声 No.19」日本語教室だより

日本語ボラティアグループ 風の子 代表 松本典子

 電車のホームで1歳半位の女の子がポスターを指して、「これは?これは?」と尋ねます。「緑」「黄色」と色を答えるお母さんが「ピンクは?」と尋ねると、その子は小さな指で見事「ピンク」を指しました。こんなシンプルな親子のやりとりから言葉の積み重ねが始まるのだと感動する一方、私がボランティアをしている日本語の教室で接する子どもたちの背負う大きな言葉のハンデを思い、暗たんたる気持ちになりました。まず親子のやりとりから子どもたちは膨大な量の言葉と文化を学びます。日本語教室では折り紙を使った「色の授業」をしたばかりです。

 私たちが活動する「いちょうコミュニティハウス」は横浜市泉区にあるいちょう団地にあり、橋を1本渡るとかつて大和定住促進センターのあった大和市になります。センターを出た人のうち、いちょう団地に住む人も多く、この団地にはインドシナ三国合わせて約200世帯の人たちが暮らし、約100人の子どもたちが団地周辺の小、中学校に通学しています。

 この子どもたちの多くは、日本で生まれ育ち、日本語は何不自由ないように見えますが、あの女の子のような日本語の家庭環境にはありません。彼らが一人で覚えた言葉の数はまだとても少ないのです。それは学校で大きく読解力、表記力の差となって表れ、学力差の大きな原因となっています。例えば数字を覚え、足し算の計算を理解できても、文章題となると、日本語の部分を読んで理解し、式にすることは彼らにとってとても難しいことです。

 この子どもたちに日本語の支援をするため私たちは活動しています。スタート時には難民事業本部の支援を受けて、地域の日本語ボランティアを対象に「子どもたちへの日本語指導方法を学ぶ」講座を開催し、これを機に大和定住促進センターで子どもの日本語指導をされていた先生、団地周辺のいちょう小学校、飯田北小学校の先生と徐々に連携が図れるようになりました。ボランティア、小学校の先生、日本語の先生が三本柱となって私たちの日本語教室は運営されているのです。

 現在は横浜市教育委員会や文化庁の支援も受けて、放課後小学校低学年を中心とした日本語の集中講座を、適宜開催しています。ひらがなの定着から始まり、日付の言い方など薄紙を重ねるような根気のいる作業ですが、この教室では子どもたちの一人ひとりが達成感を感じられるよう、また学校でストレスの多い生活を送る子どもたちのストレス発散の場にもなるよう活動しています。学校では隅にいがちな子どもたちがここでは中心となります。

 しかし、言葉の習得は個人差が大きく、どこまで個人対応ができるかなど、まだまだ課題はたくさんあります。私たちができることは本当に些細なことかもしれません。さしずめ教室にやって来る彼ら、彼女たちの「応援団」というところでしょうか。

 帰り道ベトナムの子どもたちが集まれば会話はベトナム語です。それを聞くとあらためて母国語も大事だなあと思います。「風の子」はその言葉のイメージどおり強い子を願ったものですが、さらにこの子どもたちには、閉鎖的と思える日本社会の中で、誇りをもって「異文化の風」を吹かせてほしいと願わずにはいられない今日このごろです。

定住新聞「こんにちは」第26号より転載

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