2019.3.1
「支援者の声 No.8」 多文化共生の実践校いちょう小学校
日本にも1万人強のインドシナ難民の人たちが暮らしており、特に神奈川県はその多くが住んでいます。横浜市泉区上飯田町にある横浜市立いちょう小学校には、全児童230名の内67名(中国28名、ベトナム28名、カンボジア7名、ラオス1名、インドネシア1名、ペルー1名、タイ1名)の外国籍の児童が在籍しています。多くの外国籍の児童を擁することにより学校側に必要とされるものは何か、児童たちはどうのような毎日を過ごしているのか、いちょう小学校の取組について国際教室の金子正人先生にお話を伺いました。
横浜市立いちょう小学校の国際教室では日本の行事を体験しながら言葉を学習します。
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同級生を知る
放課後、校庭では1年生と3年生の児童たちが大縄で遊んでいますが、そこには日本人もいればカンボジア人、ベトナム人なども見られます。全校児童の約30%が外国籍という特色をもついちょう小学校では、家庭科の時間に世界の料理を披露する試食会を開いたり、音楽の時間に民族楽器を演奏する機会をもっています。これは異文化理解や国際理解を教育の根底に据えているいちょう小学校の特長的な面です。
児童たちは歴史を勉強しようとすると、自然と日本だけでなく同級生の生まれた国の歴史を調べることが身についています。また、外国籍の児童たちも異文化を意識せず、イベントがあれば母国の踊りを踊ったり、卒業式には民族衣装で出席したりしています。1999年9月に起きた台湾大地震では、親が台湾出身の生徒からの提案で、救援募金に取り組み、この活動をきっかけに、台北日本人学校とのメールをとおした交流も始まっています。
このように、いちょう小学校は総合的な学習の時間という名前がつく前から土台ができており、テーマを設定しなくても児童一人一人を追っていくと必ず国際理解や異文化理解に向かい、自然に異文化に目を向けざるを得ない環境なのです。
国際教室
外国籍の児童が転入してくると、日本語の分からない児童の場合は通訳や日本語指導協力者が母語で面接をしながら、学校での決まりを説明します。そして、担任や事務担当者から必要な書類や時間割表等を渡し、普通教室での授業が始まります。各クラスには日本語と母語の両方が分かる児童がいるので、自然と世話係になって転入生の適応を助けてくれます。
国際教室は1、2年生については入り込み指導を、3年生以上については取り出し指導を中心に教科や日本語について学習します。桃の節句の時は、雛人形を飾り、菱餅(ひしもち)・白酒・桃の花を供えたりするなど日本の行事を紹介しながら、日本語の学習をしました。
多くの外国籍の児童は日本での生活経験が長いか、日本で生まれ育っているため、友達との間で交わす日常の会話には困らない程度の会話力があり、テレビのアニメで使われる話し言葉などは、かなりの部分が理解できていると思われます。国際教室に通う児童の多くは、初歩的な生活言語はおおむね習得できていると考えられていますが、正しい日本語や学習言語はきちんと身についていません。算数でも計算問題はできるのに文章問題になるとそこで使われる語いが理解できず、解くことができません。また、「読む力」と「書く力」が不足しています。ひらがな・カタカナの読み書き、1年生レベルの漢字交じり文の読みはできますが、学年相当の国語の教材文をすらすら読みこなすことは困難です。文書表現力も不足しており、聞いたことや思ったことを文字で正確に書き表すことができません。このように日本語が話せるからという理由で見逃しがちな学習言語や漢字の習得が重要課題となっています。
地域等との連携
上飯田地区には、いちょう小学校の他に横浜市立上飯田小学校、飯田北小学校、上飯田中学校が地域内にあり、各校が連携して外国籍児童・生徒の受入れ体制を整備しています。外国籍の児童・生徒が多いということは、日本語を学ぶための日本語指導者が必要だったり、教科補習をするような国際教室が必要だったり、保護者とコミュニケーションをとるために通訳が必要だったりと学校だけでは対応できない問題もあります。そのため日本語と母語での対応が可能なカウンセラーや日本語講師、地域のボランティア団体、保育園、自治体、教育委員会、大学等の研究機関も加わりいちょう小学校を支えてくれています。そして、校内に隣接するいちょうコミュニティハウスでは日本語ボランティア団体が放課後に外国籍の児童に日本語の指導を行ったり、母語指導の団体が活動したりするなど、日ごろから外国籍児童に対し多角的に支援の輪を広げています。
自分が自分でいられる場所
現在直面している問題点は、母語喪失による親子間のコミュニケーションの断絶です。児童は、日本での生活が長くなるにつれ、日本語は上達しても母語を忘れていく傾向にあります。一方保護者は、仕事に追われ、なかなか日本語を学ぶ時間がなく、日本語が上達しない場合もあり、親子間でコミュニケーションがとれないという問題が起きています。上飯田地区では、前述で紹介した母語を指導する団体もあり、こうした児童に対する母語指導の機会にも恵まれています。多くの児童が参加していますが、生活の基盤である家族のきずなを保っていくためにも、母語指導の必要性は高く、今後も母語指導に力をいれていく必要を感じます。また、担任は問題を自分で抱えてしまうのではなく、教師同士が問題を共有し支え合う、さらに、児童たちの支援の輪は、学校だけでなく地域の人たちを巻き込んで行うものだと考えます。いちょう小学校は、外国籍の児童が多いということからさまざまな異文化理解、国際理解の取組を模索してきました。そして、今では、外国籍の児童だけでなく全校児童にとって自分が自分でいられる場所になっています。 |
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