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2019.3.1

「相談員の声 No.3」 母語、母文化を大切に

関西支部日本語教育相談員 四方紀美

 姫路定住促進センターが閉所されて7年経ちました。私はセンターで8年間日本語講師をした後、1996年6月に開設された難民事業本部関西支部に翌年から日本語教育相談員として勤務しています。
 センター閉所直前に実施した難民定住者の日本語に関する追跡調査をする中で、センター退所者が日本語のブラッシュアップのためさまざまな努力を重ねていることを知りました。遠くの夜間中学へ通学した人、近くの日本語教室で勉強した人、難民事業本部が開発した日本語教材「漢字語彙集」をぼろぼろになるまで使用して自力で日本語学習をした人などなど、仕事のため、家族のためにさらに高度な日本語を習得したいと努力していました。その様子を見て、これからは日本語学習のより良い環境作りに協力していきたいと気持ちを新たにいたしました。
 ところが関西支部で仕事を始めますと、学校の教諭やボランティアから次世代の日本語指導についての相談が相次ぎました。教諭には国語教育と日本語教育との違いを説明し、ボランティアには講師を招いて指導法や低年齢者用の教材の使用方法について講座を開くなど、業務を行ってきました。
 今、関西でも第2言語で学習する児童・生徒たちが少しでも良い学習環境で勉強できるようにさまざまな取り組みが行われています。母親のお腹にいるときから聞いていた母語と異なる言語で学校教育を修得しなければならない困難さは想像以上だと思います。そんな中、母語教育が学習言語習得に大きな役割を果たすことが多方面で報告されています。2003年9月には長年、母語教育に取り組んでこられた大阪府の報告会に参加し、学校で日本語教育をすると同時に母語での指導を取り入れて、母語、母文化への誇りをもたせることで学習意欲を高め、学力獲得を確実なものにしていく実践例を聞きました。
 もちろん実践例はどこででも簡単に実施できることではありません。けれども、まず家庭で始められることがあると思います。方法として、親が子どもに母語でしっかりと語りかけ、母語による会話を絶やさないようにするのです。今は幼くても中学生になって進学や友達、その他複雑な問題で悩んだとき、親子で語り合える言葉を確保しておくのは大事なことです。
 家庭での母語教育を基礎にして、学校や地域で学習言語につなげる日本語及び母語教育を実施します。もちろん、費用や時間を考えると本格的な指導は難しいかもしれません。でも地域で退職された方や難民定住者の先輩たちが時間等をやりくりして実行すれば不可能ではないと思います。ある大学生の難民定住者は、高校生のときに母文化を高く評価されたことで誇りが持て、頑張ることができたと話していました。
 成人の日本語学習環境は地域の日本語ボランティアのご協力で少しずつ改善されています。児童・生徒の場合もやっと必要な取り組みが各方面で始まりました。今後も引き続き少しでもそれらの活動に協力できるよう努力していきたいと思っています

アジア福祉教育財団機関誌「愛」2003年12月発行より転載

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