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2013.2.26

日本語教育セミナー「外国人児童への教科指導と日本語指導」

 難民事業本部関西支部では、難民定住者やその子弟が通学する兵庫県下の小学校で日本語教育支援者として活躍している方々を講師に招き、2003年2月26日神戸市において日本語教育セミナーを開催しました。

 講師をご紹介します。
 永谷佳子さんは前記の「子ども多文化共生サポーター」として姫路市内の小学校でベトナム人児童をサポートしています。また、「城東町補習教室」の無償ボランティアとしてベトナム語を駆使しながらの活動も行っています。
中山恵子さんは、多様な教育現場で日本語教育に携わる人たちのネットワークとして活動する「ひょうご日本語教師連絡会議」に所属し、各地域で児童生徒のための日本語ボランティアをしている人たちが集まり、指導法や教材について勉強会を開いている「年少者のための日本語教え方勉強会」の代表を務めています。また、神戸市の小学校で7年間、無償ボランティアとして外国人児童へ日本語を指導し、教科と関係づけた日本語指導法で成果を上げています。
 本稿では、セミナーでの講演の一部を紹介します。

講演1.「ベトナム人児童とかかわってきて」 永谷佳子
 私は大学卒業後、2年半ベトナムに滞在してベトナム語を学習する傍ら、ベトナム人への日本語教育に携わっていました。帰国後「神戸市の有償ボランティア」としてベトナム人児童とかかわり始めました。次いで兵庫県の緊急雇用制度の「補助員」として、また今年度からは名称が変わって「子ども多文化共生サポーター」として兵庫県下のベトナム語を母語とする児童の在籍する小学校で仕事をしています。
 「子ども多文化共生サポーター」の仕事は、(1)外国人児童と教員のコミュニケーションを円滑にする(2)教員に対して外国人児童についての情報提供をする(3)日本語が十分でないために悩みを伝えることのできない外国人児童の心のケア(4)多文化教育への支援(5)学校、保護者間のコミュニケーションの補助となっています。教育委員会から示される業務の中に日本語指導と教科指導は含まれていません。しかし、日々、ベトナム人児童と接して日本語や教科学習につまずいている状況を見ていると、独自にカリキュラムを組んで長期的に日本語指導ができれば、もう少し力になれるのではないかと考えてしまいます。
 次に、サポート上での問題点とその対応を紹介します。入国間もないベトナム人児童は、ひらがなとカタカナが読めるようになると私がサポーターを務める小学校の日本語教室に来なくなります。本がスラスラ読めても内容を理解していないことが多いので、加配教員、担任と話し合い、再度日本語教室に来させるようにしています。
 日本生まれのベトナム人児童は、生活日本語は話せるのでほとんど日本語教室には来ませんが、「城東町補習教室」でその児童たちの学習状況を見ていると多くの問題点があります。例えば、1年生ベトナム人児童6人のうち3学期になってもカタカナはもちろん、ひらがなも定着していない児童が3人いますし、算数も繰り上がり繰り下がりの計算ができません。この場合も加配教員、担任と話し合い、対処しました。
「城東町補習教室」では文字、語彙習得に効果的な本読みの宿題を出しますが、それもしてこないことが多く、してきても日本語が上手でない親たちには間違いをチェックしてもらえないので、ほとんどのベトナム人児童が間違いに気づかないままになっています。そこで、できるだけ一緒に本を読み、読み方や内容について工夫しながら指導をしています。
 
講演2.「学校での日本語指導ボランティア活動報告」中山恵子
 7年前に、神戸の市立小学校から、日本語の全くできないベトナム人児童が編入してきたので、日本語指導をしてくれるボランティアを探しているとの相談を受けて、小学校での日本語指導ボランティアとして活動を始めました。
 学校の中でベトナム人児童に日本語指導をするメリットを挙げますと、?学習環境が整っている?毎日通っている学校の中で、ベトナム人児童は日常会話の上達に欠かすことのできない友人関係を築きながら日本語学習ができ、ボランティアはベトナム人児童が定期的に出席するので計画性のある指導ができる。(学校外の教室では来たり来なかったりで、せっかくボランティアが準備していても計画どおり先へ進まないことが多い)?学校行事ではベトナム人児童の行事参加の様子を直接見ることができる?担任と直接話ができる、等があります。
 現在、指導中の2人を含めて計4人のベトナム人児童に対してそれぞれ3年間、週2時間の取り出し指導を行ってきました。最初の1年間はベトナム人児童にとって何が必要かを見極めることから始め、日本語を中心に指導し、その後は教科を見据えた指導をしています。その指導の一部を紹介します。なお、指導は数字順に進めていきます。

【国語】
1文字指導
2作文指導
3教科書に沿った指導([1]音読[2]語彙の意味確認[3]内容の確認)
 
【算数】
1教科書に沿った最低限必要な語彙の理解
2文章題の中で難しい表現の確認(例:ひとつ、ふたつ、とうなどの特別な表し方)
3文章題の解き方の指導([1]どこでつまずいているか探る[2]理解していない言葉をやさしい表現に替える[3]文章題を短くする[4]文章題を解かせる[5]初級日本語程度のやさしい日本語に替える)
 
【理科】
1近々勉強することになる課の実験用語の語彙導入(例:空気、酸素、二酸化炭素等)
2実験方法と結果、どうしてそうなるかを口頭で説明させる。「外国人児童の場合、日常会話はできても教室で与えられたテーマについて発表ができない」と担任に指摘されて、教科の語彙が理解できてもそれを論理的に説明する日本語力をつけるために「どうしてですか」「どう思うか」と質問をしてそれに答えさせるよう指導する。特に理科は原因、経過、結果が明らかで指導しやすい教科なので、「最初に」「次に」「そして」「〜ということが分かりました」という言葉を入れながら話すように指導する。
 
【社会】
1教室に日本地図と世界地図を出しておき、地名が出てくるたびに地図で確認し、地図の記号もその都度説明する。
2長い文章を分け、要約した文章を口頭で説明する練習をする。
3社会科は学習に必要な語彙が多く外国人にとっては難しい教科の一つ。歴史については大阪市教育委員会から発行された帰国・来日等の子供のための歴史学習対訳補助教材『日本のあゆみと世界』があるが、7カ国語の対訳と漢字にルビがふってあって、ベトナム語訳はないが初めから日本語で学習できる。まず、学習する箇所の語彙の読みを、次に漢字で表記できるように指導、内容は一緒に読みながら確認し、資料集のテーマを見ながら一緒に考えていく。歴史は一点をみていただけでは分かりにくいので、資料を見て歴史をさかのぼって理解を深めていくようにする。
 
  セミナーには日本語教育ボランティア、小学校教諭、大学生等30名を超える参加があり、予想していた以上に外国人児童生徒の日本語教育に対する関心の高さが感じられました。セミナー後に行ったアンケート結果では「このセミナーを受講して良かった、参考になった」という回答がほとんどでしたが、「最後の意見交換の時間が短くて残念」という感想がありました。今後もこのようなセミナーを開催する意義は十分にあると思います。

 兵庫県内で行われている、外国人児童生徒に対しての日本語教育支援をいくつかご紹介します。

(1) 兵庫県では、文部科学省の児童生徒支援加配教員配置の制度を受けて、日本語指導等特別な指導が必要な外国人児童生徒を受け入れている学校に対して教員を加配している。また、平成13年度まで外国人子女教育受入推進地域として尼崎市立と神戸市が指定を受けていた。
(2) 兵庫県では、日本語理解が不十分な外国人児童生徒が在籍する学校に、コミュニケーションの円滑化などを促すため、児童生徒の母語が話せるサポーター「子ども多文化共生サポーター」を派遣している。
(3) 神戸市では、上記教員加配制度が行われる以前から、突然編入学してきた外国人児童生徒に対応するため、外国人児童生徒受入れ支援ボランティア(有償)として児童生徒の母語と日本語が堪能な人材を学校へ随時派遣している。
(4) ボランティアによる支援
1.日本語の取り出し指導
無償ボランティアが、通常の授業中に別室で、外国人児童生徒と1対1または1対2で日本語指導をしている。
2.放課後に日本語指導
  尼崎市立園田北小学校では、放課後、外国人児童は決められた教室に集まってくる。教室では加配教員がいて、児童は宿題や不得意な科目をみてもらう。加配教員1人に10数人の児童が相手となるので十分な対応ができない。そこで2名の無償ボランティアが日本語や教科指導の手助けをしている。
3.地域の公民館や各施設での補習教室
  尼崎市園田公民館ベトナム子ども学級では、放課後の毎週2回、元教員を含む数名の無償ボランティアが、外国人児童生徒の教科の勉強をみている。毎年、中学3年の受験期になると熱心に通う生徒が何人か見受けられる。
神戸市にある鷹取教会では毎週土曜日、シスターを中心に多くの無償ボランティアによる日本語や教科指導が行われている。ボランティアは、祖父母年齢の人たちが多い。
姫路市城東町総合センターの「城東町補習教室」では、毎週土曜日、小中学校の教諭、大学講師、一般成人、学生等の無償ボランティアが、ベトナム人児童生徒約20名の日本語や教科指導をしている。児童生徒は、勉強をみてもらうことを第一の目的に来ているが、学校での出来事(言葉の壁により十分に親に話せないため)をボランティアに聞いてもらってすっきりして帰っていくようだ。

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