難民定住者の職場を訪ねて
〜定着指導・求人開拓及び雇用状況調査の実施
難民事業本部では、難民定住者の職業安定に資するため、毎年数回、難民定住者が勤務または職場適応訓練を受けている事業所を対象に定着指導・求人開拓及び雇用状況調査を実施しています。訪問した事業所では、難民定住者の勤務の様子を拝見するとともに、就職者からは仕事や生活等の近況を、事業所からは勤務態度等を聴取します。また、就職者の定着状況について事業所の担当者と懇談し、合わせて問題点や悩み等についての意見交換を行います。
2005年度の定着指導等調査は4班に分けて実施する予定としており、今回は第1班の報告をいたします。
第1班は6月8日、9日に関西地区の3事業所を訪問しました。
兵庫県姫路市所在の事業所は、1988年8月に設立、1997年10月に法人格を取得しました。本社と支社ではそれぞれ工場をもち、プラスチック及び自動車部品の成形品の仕上げ・検査、携帯電話関係の組立作業、レーザー印刷・シルク印刷・パット印刷、ハンダ付け作業を行っています。従業員約60名のうち、外国出身者が8割を占めるなか、ベトナム人は約30名、勤務年数は3年から9年でした。2005年4月1日からベトナム人3名が国際救援センターのあっせんにより、プラスチック加工品の組立及び検査に従事しています。
この事業所によるベトナム人の評価は、「優秀でよく働いている。仕事に対する責任感が強い。手先が器用な上に視力も優れている」とのことでした。また外国出身の従業員のための日本語教室を毎週金曜日の夜間に開いており、みんな大変熱心に勉強しているとのことです。今後の求人については、良い人材があれば是非雇用したいとの要望がありました。
大阪府八尾市所在の事業所は、糸巻きの芯等の紙管製造を行っており、当アジア福祉教育財団が開催する2003年の「日本定住難民とのつどい」では優良事業所として表彰を受けています。
従業員14名のうちのベトナム人3名は勤務態度がまじめであるとの評価でした。また、従業員は能力に応じて給与額が決められているため、能力が高い人ほど定着率が高いのだそうです。ベトナム人従業員たちの仕事、職場に対する不平不満はなく、これからも一生懸命頑張りますと力強い抱負を語っていました。
大阪府東大阪市所在の事業所は、1957年4月に設立し、工作機械カバー、精密板金フレームカバー、一般産業機器フレームカバーを主体に塗装・組立まで一貫生産しています。
従業員37名のうちベトナム人1名は、国際救援センターのあっせんにより2004年10月11日に採用され、製品の組立・出荷包装に従事しています。ベトナム人を雇用するのは初めてとのことでしたが、ベトナム人従業員の評価は、大変真面目で、遅刻・欠勤もなく、毎日始業1時間前に出勤して作業の準備など段取りよく行っており、トラブルなどもないとのことでした。職場での会話は日本語だけということもあって言葉は以前より上達していました。事業所の担当者は、これからも引き続きベトナム人を雇用していきたいと話しており、対象者がいれば是非紹介してほしいとの求人の希望がありました。
今回訪問した3事業所ではいずれも就職している難民定住者が高い評価を受けていました。2005年度をもって国際救援センターは閉所しますが、今後も定着指導等調査を引き続き実施することにより、難民定住者の職場定着を促進していくことが必要でしょう。
第2班は、2005年6月30日と翌日の2日間にわたり、国際救援センターを退所した難民の勤め先である神奈川県内の4事業所を訪問し、作業の忙しい合間をぬって状況を聴いてきました。
文房具部品製造業:神奈川県藤沢市
事業所は、ボールペンからマジックペンまでのペンの芯を作っています。難民定住者の親戚がこの事業所で働いていたことから、国際救援センター退所者の就職紹介を受けていただきました。もともと中国系の方がいらしたのですが、難民定住者を雇用しはじめてからは安定した雇用を保てるようになったとのことです。
難民定住者の仕事は、技術者がペレットを溶かして綿に皮膜させた製品の仕分け、整形に関することです。機械からは200度の熱が出ているため室内は大変蒸し暑いのですが、冷機をあてながら、芯の太さや用途別に毎月140種類を生産しているそうです。難民定住者の勤務態度については、まじめでおとなしいと評価を受けましたが、規格を理解し、計量を行い、発送伝票を書くようにならないと一人前とはいえません。難民定住者は昼休みに日本語の本を広げて独学で勉強していましたが、将来的なことを考えて仕事を終えてから日本語の勉強をするにはどうしたらよいのかと相談を受けました。
自動車部品製造業:神奈川県茅ヶ崎市
研修生を年間5名ほど受け入れているこの事業所では、ゴムと金属を組立てた自動車部品以外に、中国に進出した日本企業のファックス部品も手がけています。急ぎの仕事が多いので、多くの種類を受注、生産、出荷しなくてはならず、製品ごとに機械の歯を切り替えているので、その都度判断を求められることも多い仕事です。国際基準であるISO9001を取得したことからも、従業員にはこれまで以上の理解力が求められてきている状況にあり、雇用されている難民定住者は正社員としての意識を持ち、率先して仕事をしてもらいたいとのことでした。難民定住者からは日本語学習の相談を受けました。
職業相談員にクリーニングの仕事について話す難民定住者 |
クリーニング業:横浜市都筑区
天井からカラフルなシャツがレールを伝ってワゴンまで運ばれていく機械化された職場には、働き盛りの一家の主である難民定住者が勤めています。クリーニング業は多忙な時期や曜日が決まっており、この事業所では毎日約1,200着を仕上げていますが、難民定住者は最後の仕上げとして、Yシャツを機械に被せて自動的に包装まで行う「つるし」と、衿に手作業でカラーをはさむ「たたみ」の両方の仕事を行っていました。事業所からは仕事を教えれば、無遅刻無欠勤で、まじめに仕事をしてくれ、急な残業にも夜遅くまで仕事をしてくれるので助かると感謝されました。限られたスペースの中で行う作業でも、自分の作業以外の流れを理解することによって円滑に行うことができているようです。人柄からか、ほか国の若い外国人従業員とも打ち解けている様子が伺えました。
自動車内装品製造、縫製検査工:横浜市泉区
この事業所で扱う製品は自動車内装品なので自動車メーカーがモデルチェンジを頻繁に行うたびに品種が変更されるので、常に仕事があるとのことでした。中国からの研修生とベトナム人が同じくらいの比率で働いていて、詳しい説明が必要な作業内容については日本語のできるベトナム人リーダーが会社からの指示を誤解のないように伝えているとのことでした。生活面では、お弁当などの「食べ物のにおい」について触れるのはいいとしても、体臭についてはトラブルを招くため言ってはいけないと指導しており、外国人を雇う事業所ではマナーについても、上司がしっかり把握し指導していることに感銘を受けました。ベトナムでは母国でも縫製の仕事をする者が多いので、手先の器用なベトナム人には適した仕事のように感じました。
調査を終えてから、今回相談を受けた2人の難民定住者に対し日本語教育相談員を通じて藤沢市と茅ヶ崎市の日本語ボランティア教室を紹介しました。難民定住者が日本で定住していくためにも、仕事をステップアップしていくためにも日本語の習得は重要となっています。
また、横浜市の事業所では、山形県に工場があるので夫婦で働きに行く人がいれば教えてほしいと相談がありました。しかし、暖かい国から来た難民定住者は呼寄せ人の暮らす土地に定住する傾向が高く、知り合いのいない土地、ましてや寒冷地に行くことはまれなことなので、仕事があっても就職に結びつかないことがあります。
国際救援センターに入所している間は、難民の背景を理解し、支援する人に囲まれていましたが、社会に出てからは地域や職場の同僚に理解を得られるとは限りません。他の国から来た外国人研修生と同じ現場で働く場合もあります。
社会に出て、職場で働いてから初めてわかることもあります。本人が何をすべきかを自覚し、自立するにはどうすべきか方向性を示すためにも関係する各機関との連携を図って支援していきたいと考えています。
難民事業本部では、日本定住難民の職業あっせんに資するため、毎年、難民定住者を雇用している事業所を中心に訪問し、その勤務状況を確認するとともに、職場への定着状況について事業所の担当者と意見交換を行っています。
2005年度は4班に分かれ、難民雇用事業所を訪問しています。11月10日には第3班が兵庫県尼崎市と大阪府大阪市に所在の2事業所を訪問しました。
尼崎市所在の事業所は、照明器具のカバー、企業の看板等、プラスチック製品の製造を行っています。従業員が現在35名おり、ベトナム人3名(うち1名は国際救援センター修了者)を含め、外国出身者は8名勤務しています。採用経路については、多くの従業員がハローワークの紹介で採用したとのことでした。国際救援センターの修了者は、勤続5年で今はプレス作業に従事しており、業務に精通し、よくやってくれているとの好評価を受けていました。事業所からは従業員には作業中に怪我をしないように注意を促すとともに、危険を感じたら無理しないように指導しているとのことでした。また、最近の動向については、海外から安価な製品が入ってくることから競争が激しく、ここ数年、厳しい経営状況にあるとのことでした。
次に訪れた、大阪市所在の事業所は、洗濯機、扇風機等の文字盤の印刷・製造を行っています。従業員は35名おり、これまでに7名のベトナム人を採用しましたが、このうち現在は4名(2夫婦。うち3名は姫路定住促進センター修了者)が在職中で、勤続年数が長い人は20年を超えています。4名の勤務評価については、言葉の面でも職務能力においても日本人と比べてなんら問題なく、人員整理を実施したときも候補にあげられることはなかったとのことでした。事業所は、バブル経済といわれた時代に比べると収益が半減してしまい、新事業の開拓を検討中であるとのことでありました。
近畿方面の雇用情勢は若干の改善がみられるものの、依然厳しい状況にあるとのことなので、難民定住者が解雇や雇用条件の悪化につながらないよう、普段から技術の向上に努めるなど一層本人の自助努力が望まれています。
難民事業本部では、日本定住難民の職業あっせんに資するため、毎年、難民定住者を雇用している事業所を中心に通訳とともに訪問し、その勤務状況を確認するとともに、職場への定着状況について事業所の担当者と意見交換を行っています。
第4班は、2005年12月8日に群馬県、12日に埼玉県と東京都にある事業所を対象に実施しました。
1.群馬県館林市の特殊機械を製造する事業所(従業員22人)では、2005年10月に20歳のベトナム難民男性が就職しました。彼は現在自動車のマフラーパイプの製造部門で職場適応訓練を受けています。日本語での会話も積極的で仕事ぶりについても雇用主から高い評価を受けています。「若い日本人が嫌ういわゆる3Kの仕事であるが、彼は若く、育てがいがあるので、今、いろいろな仕事を少しずつ覚えてもらっている。仕事に慣れてきたら、マシニング(多能工作機械)の操作を覚えてもらい、車の免許を取らせてあげたい」と今後が期待されていました。社員の採用については、ベトナム難民の彼のような人であれば、あと数人は雇用を考えたいとのことでした。
2.群馬県太田市のコーティング及び冶具加工を行う事業所(従業員40人)には、2005年10月にベトナム難民3人が就職し、それぞれ別の部署で働いており、20人近くのベトナム人が仕事のやり方を指導してもらっています。今は大型販売店用のワゴンなどのコーティングが最盛期で、残業をしなければならないほど忙しいとのことでした。作業は比較的軽い作業なので、長時間の超過勤務もそう負担にならないようです。同社でも今後の求人が見込まれます。
3.東京都東大和市の金型の製造を行う事業所(従業員数43人)には、2005年10月に就職したベトナム難民男性1人が勤務しています。最近まで、国際救援センターを修了した別のベトナム難民2人が働いていましたが、ベトナムへ帰国したとのことでした。
新たに入社した彼は、日本語も理解し、仕事もよくやると高く評価されていました。仕事は金型の切断とバリ取りで、給料は大学卒の初任給に近いそうです。彼は中国語もできるので、1年半前から中国の瀋陽に工場を開いているこの会社では、彼の語学力が役に立つ機会があるかもしれません。
4.埼玉県蕨市のプラスチック製品製造販売の事業所(従業員40人)には、2005年10月に入社したベトナム難民女性1名が勤務しています。仕事は、製品の目視検査、箱詰めの一連の作業で、最初の10日間位は、肩こりや筋肉痛があったようですが、今は慣れて作業速度が上がってきたとのことです。日本語の壁はあるものの、英語ができるので、部長が英語で説明をする場面もあるとのことです。土曜日の夜7時〜9時に川口駅近くで日本語の勉強を続けているとのことで、向学心があり、今後の成長が期待されます。今は、彼女が社内で唯一の外国人とのことです。
製造する製品は健康診断に使われている容器のため4月からは特に忙しくなるとのことです。現在のところ新たな求人の予定はないとのことでした。
今回の訪問では、若い難民の方が各事業所で歓迎されている状況を確認することができました。彼らが仕事に一日も早く慣れ、生活が安定し、安心して暮らせることを期待しています。
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