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2006.4.1

「イラク難民は今」講演概要

1. イラク難民発生の背景
2003年3月、イラクの大量破壊兵器保有疑惑を理由にアメリカがイラクを攻撃しイラク戦争が始まった。この頃から社会システムの崩壊と公共サービスの麻痺が徐々に進行した。同年5月にはアメリカによる戦闘終結宣言が行われたが、2006年2月のサマラ聖廟(モスク)の爆破事件後には宗派間対立が激化しテロが頻発した。イラク情勢は更に不安定化し、難民の流出に歯止めがかからない状況である。UNHCRの統計によると、イラク国内における避難民数は約190万人、国境を越えシリアに逃れた難民数は約140万〜150万人、ヨルダンに逃れた難民数は約45万人〜50万人に上る。
2. ヨルダンにおけるイラク難民
ヨルダン政府は、2003年にイラク難民の流入が始まった当初は、その多くが富裕層だったこともあり、イラク難民の存在を容認していた。しかし難民数の増加や貧困層のイラク人の流入により、ヨルダン経済に負の影響が出始めたため、現在は難民対策を強化している。ヨルダンでは、イラク難民およびヨルダン人を対象に食料支援や医療支援、職業訓練、教育支援が実施されているが、難民の置かれている状況の把握が困難であるため、効果的に支援を届けるのもなかなか難しいのが現状である。 イラク難民の特質として、母国での宗派間対立の暴力や脅迫等の体験から精神的ダメージを受けていること、帰還の可能性等先行きが見えないため将来に対する不安があること、収入喪失を原因とする家庭内での家長の権威失墜の結果として家庭内暴力が増加していること、不法就労等非合法的な収入に依存せざるを得ないこと等が挙げられる。
3. シリアにおけるイラク難民
シリアでも2006年2月からイラク難民が急増した。それまではシリア政府は難民に対して寛容で教育や医療サービスを提供していたが、難民数の急増により国内の教育・医療システムが圧迫され始めたため、政府による難民に対する待遇は厳しくなっている。 ヨルダンと異なり、過去に国際的な支援を受けた経験を余り持たないシリア政府は、外国の組織によるイラク難民支援に関して非常に慎重になっている。ヨルダンよりもシリアの方がイラク難民数は多く支援のニーズは存在するものの、支援活動の実施は難しいのが現状であり、NGOとしてはまだ実質的な支援は開始できていない。
4. イラク難民問題の課題と展望
多数のイラク難民の受け入れ並びにイラク難民の滞在の長期化は、ヨルダン・シリア両国に大きな負担となっている。国際社会は、受け入れ国政府に対し実質的なサポートを提供し、ホストコミュニティーと難民コミュニティー間の摩擦を軽減するため、そしてホストコミュニティーをエンパワーメントするためにイラク難民のみならず受け入れ国の国民をも対象とする包括的支援を実施していくべきである。同時に、支援する側は、イラク難民の帰還がイラク再建の原動力となるという長期的な視点を持ち、イラク難民支援を地域的プログラムと捉え、キャパシティー・ビルディング等中長期的コミットメントを要する継続的支援を行っていく必要がある。

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