「イタリアの難民受け入れ事情」講演概要
1. イタリアにおける庇護希望者・難民流入の歴史
1980年頃まではイタリアに来る庇護希望者の数は少なかった。しかし、ベルリンの壁崩壊や旧ユーゴ地域の政情不安定化に伴い、1980年代後半に変化が生じた。これらの混乱を逃れて約4,000人がイタリアで庇護を求め、その一部は難民認定を受けた。
近年の状況は異なり、経済難民といわれる就労目的の不法入国者・不法移民が増加している。このような人たちの中に庇護を希望する人が紛れているのが現状である。直近4年間では年間平均12,000人がイタリアで難民認定申請を行っており、難民認定率は約10%で、これ以外にも約40%の人々が人道上の理由により滞在許可を受けている。
2. イタリアにおける庇護希望者・難民流入の特徴
イタリアの場合の特徴は、庇護希望者の入国方法である。多くは、チュニジア、リビア、エジプトから、非合法組織が手配した小さなボートでイタリア沿岸に上陸する。エジプト人、ナイジェリア人、エリトリア人、ソマリア人が多く、内戦や部族間衝突から逃げてきた人々が多い。2007年には、このように海路で上陸した人が15,000人いた。イタリア沿岸警備隊および海軍は、難民が乗船している可能性のある船の救護活動を行っている。
3. 庇護希望者に対する支援
海上で救護した船に乗っていた人々は、上陸した後第一次救護施設に移送される。イタリア国内で一番大きな第一次救護施設はランペドゥーサ島にあり、同施設では国境なき医師団、UNHCR、イタリア赤十字社の職員が活動している。このような現場では、言葉や文化習慣の違いの問題以上に相手を助けたいと思う気持ちが大切である。第一次救護施設では食事、衣類、寝場所のほか、衛生サービスや健康診断等の医療サービスが提供される。庇護希望者(難民認定申請者)と認められた人々は他の受け入れセンターに移送され、それ以外の人々(不法入国者)についてはイタリア本土中央部にある収容施設で一時滞在させ、その後順次自国帰還の手続きを行う。また、ごく少数ではあるが、ミラノやローマの国際空港から合法的に入国し難民認定申請を行う人もいる。
申請者受け入れセンターは全国に10カ所あり、その収容能力は最小200人、最大1,000人である。効果的な申請者支援体制を組むのはなかなか難しいが、庇護を必要とする人々を見分け、将来的にイタリアの市民社会になじんでもらうための情報提供や語学教育の提供が重要となってくる。受け入れ施設のある市町村では、住民からの反発等が出るケースもある。非常に複雑な仕事ではあるが、きちんと運営していくためには、担当行政当局、難民支援団体ならびに救援施設や受け入れ施設のある地域の人々の理解と協力が必要不可欠である。
4. 難民認定手続きとその後
申請者受け入れセンターでは最長60日間の滞在が可能であり、この間に難民認定・不認定の結果を出す。最近は難民認定手続きの迅速化に努めており、平均35日間で結果を出している。
難民認定後は数年間の滞在許可証が付与され、イタリア国内を自由に移動できるようになる。生活していく上では、医療、社会保障、教育面でイタリア国民と同等の待遇を受けることができる。難民認定後自活できない場合には、イタリア政府からの生活保護費を受給できるが、通常6カ月間のみである。それでも不十分な場合には、再度審査を受けた上で延長可能だが、最大1年となっている。
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