「相談員の声 No.9」在留資格を失ったインドシナ難民への支援
関西支部 難民相談員 原口美佐代
2005(平成17)年現在、私たち難民相談員はその業務の一つとして日本が受け入れた難民及び難民認定申請者の定住促進のための相談業務を行っていますが、その方法も対象も日本が初めて難民を受け入れた当時と現在では大きく変化しています。
約25年前の日本の条約難民の加盟に伴う出入国関係の法律の改正により、難民の社会保障等については内国人待遇による措置を行うことが要請され、各種の法律が改正されました。閣議了解に基づく制度の下で受け入れられたインドシナ難民への支援においては、文化的背景や日本語運用能力の問題を抱えながらも少しでも「自分らしく」生きていけるように、難民相談員は相談者と周囲の環境を調整するという援助の実践を行うことができていました。そして、ほとんどのケースにおいて在留資格があることを前提に相談業務を行うことができていました。
ところが、近年、インドシナ難民として日本に定住していたにもかかわらず、法を犯したため退去強制令書の発布を受けて在留資格を失い、母国にも帰ることができない状況に陥ったベトナム難民とラオス難民への支援という予期せぬ新たなケースに取り組まねばならなくなったのでした。
仮放免者は在留資格がありません。就労も制限され、国民健康保険に加入することもできません。不安定な状況の中で体調不良を訴える人も多いのですが、医療費を自己負担で受診する余裕もなく、社会福祉法に基づく無料低額診療事業を利用しての受診を支援することとなります。しかし、この事業を取り扱っている病院の数が少ない上に、さまざまな制約があるため、糖尿病や喘息のような慢性疾患や精神疾患の場合には有効な利用ができません。ハローワーク等公共の支援を受けることもできません。また、生活保護の受給は認められずにいます。
このように援助の選択肢の少ない状況です。私は、仮放免者への相談業務を通じて、さまざまな関係協力機関と連携し、お互いの立場や担いうる機能を十分に尊重した上で、チームの一員として当事者を支援することの大切さと難しさを改めて学ぶことができました。
在留資格がない当事者たちは再び在留資格を得、日本での生活をやり直すことを目指し、日々懸命に生きています。さらに、自らが難民の経験を持つカトリックの神父をはじめ、さまざまな人たちの支援を受け、2005(平成17)年に当事者の会を結成されました。毎月、第三日曜日に大阪府門真市にあるカトリック門真教会に集まり、メンバーたちが抱える生活上の問題などについて情報交換しながら、再犯しないようお互いに助け合い、協力し合うための話し合いを行っています。また、再び在留資格を得て、日本社会で更生し、生活者となるためにはどうすればよいかをテーマに勉強会も開いています。「将来は自分たちの体験を伝え、ベトナム難民の同胞が犯罪に走らないような活動につなげていきたい」というメンバーたちが核となり、コミュニティー活動に発展していくことを願いつつ、今後も難民相談員としての役割を担っていきたいと思います。
アジア福祉教育財団機関誌「愛」2005年12月発行より転載 |
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国際救援センター93期生の総合修了式
2005年3月25日穏やかな日差しの中、日本語教育及び社会生活適応指導を修了した93期生の総合修了式が行われました。緊張した面持ちの81名一人ひとりに修了証明書が授与されました。
さまざまな思いを胸に静かに席に着く修了生たち。6ヵ月間の思い出とともに修了生もセンターを巣立っていきました。
国際救援センターの社会生活適応指導「社会人との懇談」
国際救援センターでは、社会生活適応指導の一環として「社会人との懇談」という講義を開き、センターを退所した先輩定住者を講師に招いて、日本で生活する上での注意事項や体験談などをお話してもらっています。今回は2005年3月18日に、在日33年、ベトナムコミュニティーで活動する難民定住者からお話を伺いました。
以下に講義の概要をご紹介します。
(講師)これから私が話すことはあくまでも個人的な経験に基づいたことで、住む場所や状況によって違います。私の話すことがすべて正しいわけではないので一つの参考にしてください。
<日本の特色について 自由と民主主義>
先ず日本全体と社会の問題を話したいと思います。
もうご存知のように日本は民主主義国家ですが、象徴という存在で天皇がいます。日本では首相を総理大臣といいますが、ベトナムでいうと国家主席のような存在です。日本では総理大臣と内閣が行政を動かしています。日本の何が良いかというと、自由と民主主義の点です。例えば選挙ではいつも投票率は40%くらいです。投票はしてもしなくても個人の自由です。ベトナムでは投票率は99%、党から誰に投票するかを指示され投票日には強制的に選挙に行かされます。
<礼儀正しさと整理整頓>
日本人の特色を挙げますと、良い点は、先ず礼儀正しいこと。そして家の中を整理整頓することだと思います。日本は家が小さくて狭いです。ベトナムでは家が大きいのでどこに物を置いてもいいのですが、日本では置く場所が限られるので整理整頓をするのでしょう。
日本人同士が挨拶をするとき、普通は15度くらい腰を前方に曲げるのですが、相手が偉い人のときはほぼ45度に曲げて挨拶します。これは日本文化紹介の本に挨拶の仕方として書いてあります。これを見て日本人は礼儀正しいと思う人も多いと思います。
<学歴>
一般的に日本人の学歴は高いです。ベトナムでは大学を卒業したというと偉い、珍しいということになりますが、日本では大学を出ている人が多いのでたいして珍しいことではないのです。
日本では中学卒業までは義務教育で学費は無料です。個人的にかかるお金は修学旅行や制服などです。ベトナムでは先生のために募金をするということがありますが、日本ではそのようなことはありません。
<勤め人と自営業>
日本ではほとんどの人がどこかに勤めています。自営業・大企業の経営者もいますが、圧倒的に多いのはサラリーマンです。一方、ベトナムでは自営業が多いです。ベトナムではどんな形でも自営したいと思っている人が多いですが、日本で自営業を営むのはそれほど簡単なことではありません。私自身、日本で生活して30年になりますが、一度も自分で店を経営しようと考えたことはありません。
<勤務時間>
日本の会社勤務は基本的には厳しいですが、きちんと事前に届出をすれば休暇を認めてもらえます。休暇をとりたいときには、事前に申請して許可を得ます。
ベトナムから日本に来て、生活環境が変わり、不自由を感じるかもしれませんが、慣れるしかありません。
<外国で生活するときの壁について>
1. 言葉の壁
小学生の子どもたちは、日本語を自然に覚え、使い方も自然で、すぐ慣れるからいいのですが、大人が生活する上で、言葉は一番苦労する問題です。実際、私の例でも日本に来て30数年になりますが、言葉はこれ以上勉強しても思うような進展が期待できません。
2. 資格・技術の壁
ベトナムで何か特殊技術や専門知識を取得していても、日本の資格として認められないことがあります。友人の場合、ベトナムの大学で勉強して発電関係の仕事をしていましたが、日本ではベトナムに居たころのような仕事はできませんでした。ベトナムの資格や技術が日本では通用しない場合もあるのです。
<同胞との付き合い>
日本には同国人のコミュニティーがいくつかあります。ボランティアでいろいろ支援してくれる日本人もいますが、同国人と母国語で情報交換をするのも良いと思います。
<壁を乗り越える>
どうやったら、壁を乗り越えられるか。
1. 言葉:日本語ボランティア教室で勉強を続ける。
2. 子どもたちはできるだけ進学させる。
3. できれば専門の資格を取る。
4. 地域の決まりに従う。特にごみと騒音は気をつけて、規則を守る。
5. 近所の人とよく付き合う。その方法はいろいろあるが、まずは礼儀正しい挨拶をして仲良くなる。
日本に来て成功している難民の人たちの共通点は意志の強さです。彼らはどんな状況にあっても勉強と努力を続けたのです。皆さんも日本社会に積極的に参加していきましょう。
国際救援センターに入所中の子どもたちが通学する品川区立八潮小学校で、日本語学級の学習発表会が2005年3月10日に行われました。
センターに入所している学齢期の子どもは、保護者が社会生活適応指導を受講する約1ヵ月の間、希望によりセンター近隣の小・中学校に通学します。93期のベトナムとカンボジアの子どもが、八潮小学校に4人、八潮南中学校に4人通いました。
八潮小学校の日本語学級では、外国人児童のために日本語の指導や算数・社会などの教科の補習指導を専任の先生が個別に行っています。品川区内の他校からも通級しており、現在インド、フィリピン、中国、台湾、韓国、アメリカ等の14人の子どもたちが勉強しています。
学習発表会は学期ごとに行われ、今回は三学期に行われる年度の集大成でもあります。プログラムの構成はよく練られており、まずは学習の成果を存分に発揮できるようにゲームで児童の緊張をほぐしてから、順に自国の文化やお気に入りの本を紹介したり、自作の物語などを発表したりしました。
学期途中の転入にもかかわらずセンターの子どもたちは、他の児童の保護者やクラスの先生、在籍校の校長先生たちが参観する中、多少緊張しつつも歌に朗読にと楽しみながら取り組む姿が参加者に好評でした。
児童の習熟度や理解度に応じた先生の工夫した指導や、一緒に日本語を学ぶ外国から来た仲間との環境は、センターの子どもたちにさらなる学習意欲を生み、後日自発的に自作の物語を披露するなど学習態度に表れています。
保護者はセンターでの授業があるため当日は職員が代わりに参観しましたが、後日発表会のビデオを視聴しながら、新しい生活への順応性に富む我が子の成長の姿をそれぞれに感じとっていたようです。
難民支援活動ワークショップ「イギリスの難民定住支援」
イギリスのレフュジーカウンシルのデン・ヤンさんの講演 |
難民事業本部は、日本のNGOのスタッフを対象に2005年3月1日、2日に「難民支援活動ワークショップ」を開催しました。今回は、イギリスにおける難民への教育支援について、また支援する際の通訳との協力について、レフュジーカウンシルのデン・ヤイさんを招いて講演を行いました。
イギリスのレフュジーカウンシルは、庇護(難民認定)申請者や難民の定住支援、政策提言、難民に関する調査・研究を行っているNGOであり、デン・ヤイさんは、エジプト、イギリスで語学教育関連の学位を取得し、1999年からレフュジーカウンシルで雇用・訓練・成人教育・政策開発のアドバイザー兼英語教育の上級アドバイザーを務めています。
1.難民への教育支援
難民が受入国において自立して生活していくためには、自立のための知識や技術を身につけることが必要で、そのことにより難民は多くの人と交流し、社会的・経済的成功を収めることができます。そのためには学校、職場、自宅において適切な教育が受けられることが重要となります。
ワークショップではイギリスの例を参考に、難民が教育へ参加するのに障害となっている問題、また参加を拡大するための方法を学びました。
- イギリスにおいて難民が教育へ参加するのに障害となっていることは、難民自身が教育を受ける権利があることを知らなかったり、教育にかかる費用が不足していたり、海外で取得した資格がイギリスで十分に認識されていないことなどが挙げられました。
- 参加を拡大するための方法としては、難民が継続して教育に参加できる政策があること、経済的支援があること、カリキュラムに柔軟性があること、適正なレベルで学び、レベルアップにつなげられるカリキュラムがあることなどです。
2.通訳との協力
難民等を支援するには、支援者は多くの場合通訳者を介して活動します。
難民からの相談に応じる場合、難民等の権利を守り、正しい情報を入手するためには通訳者との協力が欠かせず、またいろいろな配慮が必要となります。
ワークショップではクライアント(通訳支援を必要とする難民等)をインタビューする際の、通訳者との協力について具体的な注意事項などを学びました。以下はその一例です。
- 通訳者は、公平性、守秘義務、利害の衝突を処理する能力が求められます。
- 支援者は、インタビューの目的、役割・責任・限界の説明、文化的背景の説明など、通訳者との事前の打ち合わせが必要です。
- インタビューの開始時には、支援者はクライアントと通訳者が同じ言語を話していることを確認し、また、インタビュー中は通訳者と話をするのではなく、クライアントと直接話をすることに努め、インタビューをコントロールすることが大切です。
- 支援者は、インタビューの前後を通じて通訳者とクライアントが二人だけで過ごすことを回避することも重要なポイントです。