難民事業本部は、アイルランドにおける条約難民及び庇護申請者等に対する支援状況を把握する現地調査を実施しました。
1.アイルランドの難民受け入れ アイルランドは、1956年に難民の地位に関する条約(難民条約)に加入しました。同条約加入時のアイルランドは、難民の受け入れをほとんど行っていませんでした。難民の地位に関する条約加入後、アイルランドは、1956年にハンガリー、1973年にチリ、1979年以降はベトナムなどから国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)のプログラムに基づき海外から難民を受け入れましたが、アイルランド国内において庇護を求める人はほとんどいませんでした。むしろ、アイルランドは、1990年代、積極的な外資誘致政策を実施し、ハイテク産業等を中心に著しい経済成長を遂げるまで英国や米国への移民排出国として知られていました。しかし、経済成長に伴い、1992年に39人だった庇護申請者は急増し、2002年には過去最高の11,638人がアイルランドで申請を行いました。2002年以降、欧州諸国一般に見られるように申請者の数は減少傾向にあります。2005年には4,320人が申請を行い、966人が難民として認定されています。 2. 難民受け入れ制度 アイルランドの難民受け入れ制度には、UNHCRの第三国定住プログラムに基づく受け入れと庇護申請手続きに基づく受け入れがあります。 (1)UNHCRの第三国定住プログラムに基づく受け入れ(クオータ制) アイルランドは、ハンガリー、ベトナム、イランなどから不定期に海外から緊急措置として難民を受け入れてきましたが、1998年、正式にUNHCRの第三国定住プログラムを導入しました。アイルランドのクオータ制による受入枠は毎年10件で、受け入れ人数は家族構成等により異なります。2000年以降、アフガニスタン難民などを受け入れています。 アイルランドは、UNHCRから外務省に提出される書類を法務省(Department of Justice Equality and Law Reform)が審査を行い受け入れる人を決定しています。 (2)庇護申請手続きに基づく受け入れ アイルランドで庇護を求める人は、アイルランド警察または難民申請コミッショナー事務所(Office of the Refugee Application Commissioner (ORAC))で申請を行います。最初のインタビューは、難民支援コミッショナー事務所の担当者によって行われます。同担当者は、申請者の氏名、年齢、国籍、アイルランドへの入国ルートなどを確認し、その後、難民該当性の審査を行います。庇護申請者は、庇護を付与しない決定をされた場合、通常、決定の通知を受けた日から15日以内に難民異議審判所(Refugee Appeal Tribunal)に異議の申し立てをすることができます。難民支援コミッショナー事務所および難民異議審判所は、いずれも政府からは独立した第三者機関です。両機関の決定は法務大臣に勧告され、最終的には法務大臣が勧告に基づき庇護の付与の是非を決定します。法務大臣は、庇護を付与しない人について、人道的配慮に基づきアイルランドに受け入れるか否かの裁量権も持っています。 3. 庇護申請者に対する支援 庇護申請者は、申請中、実質的に法務省受入・定住局(Reception and Integration Agency (RIA))が所管する全国に53カ所ある(2006年8月現在)アコムデーションセンター(Accommodation Centre)へ入所しなければなりません。調査団が訪問したモズニー(Mosney)アコムデーションセンターでは、食堂で三食が提供され、英語教室、トレーニングセンターなどが完備されていました。 庇護申請者には、大人週19.10ユーロ(約2,900円)、子ども週9.60ユーロ(約1,400円)の生活費が支給されます。1999年7月26日以降、申請者の就労は認められなくなりましたが、ボランティア活動は認められています。医療については、医療カードを取得した申請者に対して、無料で医療サービスを提供しています。その他、庇護審査の全課程において、難民法律サービス(Refugee Legal Service)などが、申請者に対する法的支援を行っています。