アフガニスタンの国内避難民の状況
(2001年8月30日〜9月5日の現地調査)
難民事業本部は、2月に行ったパキスタンに流出したアフガン難民についての状況調査に続き、アフガニスタン北部地域において、戦闘と干ばつによって生じた国内避難民の調査を、NGO6団体の参加を得て実施しましたので、以下にその概要を記します。なお、パキスタンにおけるアフガン難民については、当ホームページに関係記事があります。
1. 全般状況
1978年の旧ソ連軍の侵攻以降続く長期の内乱で、国外に流出した難民は400万人にも上るといわれます。あわせて35年ぶりの干ばつは今年で3年目に入り、農業が深刻な打撃を受けています。このため昨年夏以降だけでも、中央高原地帯をはじめとして70万から100万人が避難民となったといわれます。アフガニスタン国内の状況については情報が滞りがちですが、中央部からパキスタンへの難民流出路となったカブール、カイバル峠間幹線道路周辺地域や、昨年末から年初にかけて避難民キャンプで凍死者が出たことが報じられたヘラート周辺の西部地域については、情報も得られます。そこで国連機関や国際NGOによる人道支援活動は、これらの地域を中心に行われています。
他方、今回調査対象とした北部地域は、小麦や米の生産地域であるため、中部高原の干ばつを逃れた人々がそこに流入しました。しかし、干ばつはこの北部地域にも及び、ここからさらに西のヘラート周辺に人々が流出しました。また北部地域の東端には、タリバーン政権に対抗する北部同盟との戦線が存在し、戦闘から逃れる人々も存在します。このように、北部地域は、避難民の流入と流出が錯綜する状況にあります。
戦線の存在という不安定要因と情報不足により、北部地域での国際的な支援活動は手薄となっています。
なお、タリバーン外務省関係者は、ヘラートやジャララバードでのキャンプ支援と、カブール周辺の道路、医療分野への支援の重要性も強調していました。
2. 北部地域での支援活動
北部地域では、人口630万人のうち80万人が飢餓に直面しているといわれ、避難民は35万人程と推定されています。特に、自発的に仮キャンプ住まいをしている人々は、シェルター、食料、収入源もなく困難な状況にあり、はしか、下痢症、眼病等の発生が見られるほか、非常食としての牧草摂取等は今後飢餓状態に陥る可能性を示しています。この地域への支援は、流入した避難民を支援することになるほか、この地域から他地域への流出を抑制することになり、支援の重要性は決して他地域に劣るものではありません。
現在、国連人道問題調整事務所が、UNHCR、WFP、IMO、 UNICEF、国際NGOの全体的な調整役となり、地域ごとに調整役となる団体が決められつつあります。流入避難民への支援は、シェルターや水の供給、越冬対策等の短期的支援が中心となります。流出抑制のための支援は、人々が家を捨てる前に干ばつの影響を緩和するための、水の供給、衛生と栄養の確保、種の配給等農業支援や所得創出支援をはじめとする中長期的支援が中心となります。さらに、キャンプにいる避難民を郷里の村に帰すための支援も必要です。
援助の方向性を策定する際に特に注意すべき点は、長期の内乱と厳しい干ばつにより、人々が避難民となる前にすでに厳しい生活を強いられていることです。避難民キャンプが設営されると、そこで支給される物資やサービスを目当てに、避難民ではない住民までもがキャンプに出てきてしまいます。このように、支援活動が、かえって避難民の流出を加速しかねない危うさを内包しているので、支援策は総合的なものでなければならず、中でも人々がキャンプに出ないですむような対策を併行することが肝要です。そのためには、さまざまな分野に特化した複数の援助団体が、連携をとりながら、短期的支援に加えて、流出抑制のため中長期の多様な事業を展開する必要があり、そのため団体間の連絡と調整が極めて重要な役割を果たすことになります。
3. 調査地と周辺の状況
本調査団は、マザール・イ・シャリーフ市を拠点として調査活動をしましたが、北部8州のすべてを踏査することはできず、同市近郊の援助団体が運営するサキキャンプと、サリプール州の自然発生的なキャンプのみを調査しました。この地域は、夏は40度を上回り、冬は零下になる厳しい気候条件下にあるため、特に自然発生的なキャンプに対して、現時点では越冬対策を至急に進める必要が認められました。また、避難民数も増加中で、自然発生的な小規模なキャンプがいくつも存在するといわれているため、更に詳細な調査が早急になされる必要性があると思われます。そのほか、西のファリヤブ州も同様のニーズがある模様です。マザール・イ・シャリーフ市の東にあるクンドゥス州、バグラン州においては、避難民の多くがホストファミリーに身を寄せており、避難民とホストの双方に対して支援が必要とされています。この地域では、農業復興支援も越冬後の明年春以降必要となると思われます。また、国内で最大の地雷、不発弾が埋まる汚染地域を抱えていることから、地雷回避教育の緊急性も高いと判断されます。アフガニスタンでは、今のところ「ペシャワール会」、「燈台」等が日本のNGOとして支援の手を差し伸べていますが、本調査団の調査結果が活かされて、今後さらに多くのNGOが、同国で活動するようになることを期待します。