イギリスにおける難民認定申請者の受入施設
(2003年1月26日〜2月7日の現地調査)
当難民事業本部は、フランス、ベルギー、イギリス、ドイツにおける難民認定申請者(以下「申請者」)の受入施設の状況を把握するため、2003年1月26日から2月7日まで現地調査を実施しました。
本稿では、イギリスにおける申請者の受入施設について紹介します。
I.イギリスの難民認定申請者
イギリスの申請者数は、1980年代前半は2,000人から3,000人でしたが、1980年代後半になると急増、1996年・97年には一時減少したものの、最近3年間は再び増加傾向にあります。2000年の申請者は80,315人であり、申請者の主な出身国アフガニスタン、イラク、ソマリア、スリランカ、トルコなどでした。
イギリスで難民認定を求めた人に対してはまず事前審査が行われます。事前審査では、入国ルートの確認などが行われますが、EU諸国、米国などの「安全な第三国」を経由した人で一定の条件に該当した場合は、実質的な審査(難民性を判断する審査)を行うことなく当該国に送還される可能性があります。実質的な審査は、内務省移民・国籍局(Immigration and Nationality Directorate)による第1次審査、移民上訴機関(Immigration Appellate Authority)による異議審査に分けられます。
II.申請者受入施設
申請者受入施設は、民間会社が管理・運営する「レセプションセンター」、NGOなどが管理・運営する「短期滞在施設」、地方自治体などが管理・運営する「分散受入施設」に分けられます。これらの施設は政府との委託・運営契約に基づき管理・運営されています。
「レセプションセンター」は、収容することが必要と判断され、かつ、速やか(7〜10日程度)に判断がなされる見込みの申請者が入所する施設で、現在、ケンブリッジ州オアキングトンにあるオアキングトン・レセプションセンターの1ヵ所のみがあります。申請者は、申請の結果が出るまで、政府によって住居の提供などの生活支援を受けることができますが、「短期滞在施設」は、収容の必要がないと判断された上陸直後の申請者が、政府による生活支援を受けるまでの間待機する施設です。申請者は、短期滞在施設の全体数は今回の調査ではわかりませんでしたが、10,000ベッド以上が確保されているようです。「分散受入施設」は、政府による生活支援の一環として提供されるもので、申請者は難民申請の結果が出るまで同施設に入居することができます。政府は、自治体や民間のホテル、一般住宅、アパートなどと契約を結んでおり、全体で50,000人以上の入居可能となっています。
調査では、短期滞在施設の1つであるスローンクリフホテルを訪問しました。
III.スローンクリフホテル(短期滞在施設)
1.施設の概要
スローンクリフホテルは、旅客用ホテルとして建設されましたが、利用者数の低迷から閉鎖されることになりました。現在は、レフュジー・アライバル・プロジェクトというNGOが建物全体を借り上げ、申請者用の短期滞在施設として利用されており、500ベッドの収容能力があります。
2.施設でのサービス
施設では以下のようなサービスが提供されています。
(1) 食事
1日3食が給食として提供されています。
(2)教育
語学教室、児童に対しては絵画教室などが開講されています。
(3)医療
施設には医療職員がいますが、外部での治療が必要な場合には、近隣の医療機関が紹介されます。申請者は、無料で医療を受けることができます。
(5)法的扶助
申請する際の複雑な法手続等について、申請者が必要に応じて外部の弁護士に直接相談する体制が整えられています。
(6)その他
レフュジー・アライバル・プロジェクトは、政府による支援の決定後、分散受入施設への入居を希望する申請者に対して、政府の支援に関する情報資料一式を渡し、以後の政府の支援に関するオリエンテーションを実施しています。
IV.イギリスの今後の動向
イギリス政府は、2004年に400人から750人が収容可能な申請者用の大規模施設の設置を考えているようです。運営の主体は未定ですが、民間会社や地方自治体、NGOなどが候補にあげられています。現在、施設を設置する予定の地方自治体は大規模施設建設に反対しており、政府は、政府、地方自治体、NGOなどの「ソーシャルサービス」を提供する場所の近隣に小・中規模施設を設置する案も検討しています。
⇒詳しくは報告書をご覧ください(PDF 2.21MB)