イタリアにおける難民受け入れと支援の状況
(2007年11月12日〜11月16日の現地調査)
難民事業本部は、イタリアにおける条約難民および庇護申請者等に対する支援状況を把握する現地調査を実施しました。
1.難民受け入れ政策
イタリアは移民送出国としての歴史が長く、移民受け入れ国に転換したのは比較的最近の現象です。イタリアにおける庇護申請は主に東欧諸国からでしたが、近年アフリカ諸国からの申請が目立つようになりました。イタリアは移民および庇護申請者が混合型で入ってくるのが特徴であるため、外国人の地位を明確にし、保護対象者の法的権利を広げると同時に不法移民を取り締まることを難民政策の基本方針としています。
イタリアにおいては難民基本法が存在せず、庇護の権利および難民の地位はイタリア共和国憲法および1951年の難民条約を基本に保障され、移民法の一部に規定されます。2002年ボッシ・フィーニ法は大きな制度改革をもたらしました。身元確認センターを設置し庇護申請者と不法移民の識別を徹底することになったこと、難民認定にかかる審査期間の迅速化を図るため、申請書類の審査機関として七つの地方委員会を設置したこと、また、地方分権を基礎とする、公的な保護システム(SPRAR)を設立したことがあげられます。
SPRARは通常手続きを踏む庇護申請者、難民および人道保護対象者を対象としており、法的支援、社会・精神的支援、就労支援、語学教育、住居支援等、必要なサービスを一貫して保障するネットワークです。SPRARネットワークの中心には内務省の管轄組織である中央サービスが設置され、実務はイタリアの市の連合(ANCI)を通して実施されます。
2.難民受け入れ制度
イタリアでは難民受け入れ制度としてUNHCRの第三国定住プログラムを導入しておらず、庇護申請手続きに基づく受け入れのみを行っています。新たなる法の施行、EUの指令等により、イタリアの難民受け入れ制度は大きく変化を遂げました。以前は決定を下すまでに多くの時間を有したことから、庇護申請者は不安定な立場に長く置かれる等、多くの弊害を生んでいましたが、現在は、審査機関の増設を主な理由に審査期間の短縮化が実現され、状況の改善が見られるようになりました。
イタリアで庇護を求める人は、国境の警察において庇護申請を行い、警察は領域管轄権を有する県警察本部へ通知します。
庇護手続きには簡易手続きと通常手続きの2通りがあります。正規書類を所持しない入国者が庇護申請をする場合、身元確認センターまたは一時滞在センターに滞在し、簡易手続きを踏みます。右以外は通常手続きが適用されます。申請者のおよそ8割が簡易手続、2割が通常手続きを踏んでいます。
庇護申請が受理されると、2日以内に担当する地方委員会に申請が通知され、審査が開始されます。地方委員会による書類審査とともに、面接が行われます(簡易手続きの場合は15日以内、通常手続きの場合は30日以内に実施)。
面接の後3日以内に難民認定、人道的保護、不認定の3種類の決定が出され、決定結果は警察を通じて申請者本人に伝えられます。簡易手続きにおいて難民不認定となった場合は、5日以内に地方委員会による再審理を申請することができます。最終決定は10日以内に下されます。結果に対する異議申し立ては、裁判所において行うことができます。
3.庇護申請者に対する支援
庇護申請者全員を対象とした受け入れ施設はありません。簡易手続きを踏む申請者は身元確認センターにおいて、委託された支援団体による法的支援、社会支援、語学教育等が提供されます。通常手続を踏む申請者に特化した支援はありません。SPRARネットワーク、NGOや宗教団体等は申請者、難民認定者および人道保護対象者を区別せずに住居、語学講座、就労支援、法的支援、社会オリエンテーション等のサービスを提供しており、各人は必要に応じた支援を受けることができます。また、社会連帯省は合法滞在する外国人に対する基金を設立しており、申請者も支援の対象です。申請後6カ月を経過し、条件を満たす申請者は就労が認められています。政府による経済支援は基本的に行っていません。なお、生活手段がない場合、SPRARの支援プロジェクトによっては月30-50ユーロ(約5,000円‐8,000円)程の支援を提供しています。 NGOや教会団体の多くは、金銭の支給の代わりに衣食住の現物提供を行っています。
4.条約難民等に対する定住支援
条約難民に特化した支援はなく、庇護申請者および人道的保護対象者をも対象としたSPRARプログラムによる支援を受けることができるほか、NGO等民間団体が実施するイタリア語、医療、住居、就労、生活ガイダンス等、生活に必要な支援を受けることができます。また、イタリアにおける外国人一般を対象とした社会連帯省の支援も受けられます。
SPRARにおける支援の期間は原則最長1年であり、その期間内に自立することが目標とされています。難民認定者を対象とした特別な居住施設はありませんが、SPRARネットワークは総ベッド数2,500から3,000を提供しており、また、社会連帯省、教会、NGO団体が独自に住居や、住宅探しのための情報提供を行っています。語学教育はSPRARプログラムにより実施される他、教会、NGO等も語学教室、子供に対して放課後の勉強の手伝いなどを支援しています。就労および職業訓練についても、早期に自立できるよう、各種団体による支援が行われます。医療は基本的に無料であり、イタリア国民と同等の医療サービスを受けることができます。また、NGO団体によっては、支援対象者および支援をする者に対してメンタルヘルスケアを実施しています。
5.ランペドゥーサ島における支援
海路による入国は、アフリカからヨーロッパへの入口であるランペドゥーサ島に代表されますが、ランペドゥーサ島に到着した外国人は2006年には18,096人であり、海路から入国した外国人全体の82%を占めました。この島には、入国して身元や立場が分からない人のための施設である救助および初期保護センター(CSPA)が置かれています。政府は2006年、欧州委員会による財政支援を受け、ランペドゥーサ島における受け入れ保護を強化するためのプロジェクトをUNHCR、IOM、赤十字と協同して開始しました。本プロジェクトに伴い、3機関がセンターに常駐することになり、保護強化および透明性に繋がりました。ランペドゥーサ島へ入国するにあたり、自力で到着する船は数少なく、大方は救助されます。島には海上警察および密輸や経済犯罪を取り締まる財務警察が存在しますが、総動員で人命救助にもあたっています。
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報告書表紙・目次(PDF 53.9KB)
報告書本文(PDF 0.90MB)