インドネシア−分離・独立の動きと宗教間抗争
(1999年9月17日の講演)
難民事業本部は、世界の難民発生地域の政治情勢と難民状況についての最新情報を提供するためパリナック・ジャパンフォーラムの協力を得て、昨年から「難民情勢講演会」を開催しています。第5回の今回(9月17日)は、外務省南東アジア第二課東本事務官を講師として、「インドネシア−分離・独立の動きと宗教間抗争−」の講演会を行いましたので、概要を紹介します。
●講演要旨
1998年ハビビ大統領が就任後、幅広い分野での改革の推進が図られてきたが、スハルト時代約30年間の不平不満が分離独立の動きとなり、宗教・民族間の紛争の増大圧力が高まった。
インドネシア政府は新しい地方自治法及び中央地方財政均衡法の2001年の施行を予定し、自治拡大に前向き姿勢を示した。
1. アチェ特別州
ハビビ大統領は本年3月アチェを訪問し、スハルト治世下の人権侵害に行き過ぎがあったことを謝罪し、集中的に開発予算を出すことを約束したが、分離独立は認めないこととした。これに対し、アチェ独立運動「ガム/GAM」(インドネシア語の頭文字から取った勢力)は住民及び治安部隊を攻撃し、市民生活にも影響が及んでいる。
北部3県北アチェ県、ピディ県及び東アチェ県で独立運動勢力とインドネシア治安部隊との武力衝突があり、国内避難民は本年7月現在15万人と報道されているが、インドネシア政府は医薬品、食糧等を提供し、避難生活を支援した結果、本年9月には5万8,000人に減っている。
2. マルク州(アンボン島)
1998年11月及び本年1月のイスラム教徒とキリスト教徒との宗教間の抗争で約360人が死亡し、国内避難民は約4万5,000人となった。スラウェシ島に逃れた避難民もおり、現在同島にいる避難民数は東チモールからの避難民も含めて40万人と発表されている。
3. イリヤン・ジャヤ州
最東部のイリヤン・ジャヤ州の分離独立を目的とする武装勢力「自由パプア運動」が州政府施設に侵入する等の事件が発生しているが、激しい武力衝突は起こっていない。国内避難民の存在は否定できないが、大人数にのぼっていないと見られる。
4. 西カリマンタン州
1998年2月原住民系ダヤック族と政府の政策で移住してきたマドゥラ族との間で部族間抗争が発生、サンバスで大規模な衝突があり、200人以上が死亡。現在約5万人の国内避難民が、サンバスから数十キロのポンデアナックに収容されている。
5. 東チモール
インドネシアが1945年独立した後もポルトガル領として残った。ポルトガルが1974年に主権を放棄した後、独立派が1975年東チモールの独立を宣言したが、1976年インドネシアは東チモール併合を決定した。昨年インドネシア政府は拡大治安案受入れか否かの住民投票が行われた。
独立派と併合派の武力衝突が顕在化し、投票前の避難民は4万人と推定された。9月4日の投票結果発表後は、併合派に属する武装集団等による独立派のメンバー、一般市民及び国連関係職員、報道関係者などの外国人に対する攻撃が開始された結果、ディリ市内は麻痺状態に陥り、略奪、放火が行われた。
国内避難民の数は9月初旬でクーパンに9万4,000人、アタンブアに7万4,000人で、さらに、東チモールの山岳部に相当数が避難していると思われるが、現時点では状況の把握が困難。
日本政府は国連東チモール支援団(UNAMET)支援のため国連信託基金に対し1,000万ドルを拠出し、また、文民警察官3名、政務官1名を派遣した。さらに、UNHCR及びWFPの避難民の初動支援活動に対し、計200万ドルの拠出を決定した。
(その後、日本政府は東チモール人道支援現地調査団を派遣し、また、多国籍軍への1億ドル拠出等の支援を決定している。)