シリア、ヨルダンのパレスチナ難民
(2003年11月14日〜11月23日の現地調査)
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シリアQabr Essit難民キャンプの医療センター新生児室 |
現在、全世界には約500万人のパレスチナ人がいるといわれています。パレスチナ難民の定義はさまざまですが、パレスチナ難民への救済事業プログラムを実施するために設立された国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)は、パレスチナ難民を「1948年の第一次中東戦争の結果、居住地・生活手段を失った者」と定義しています。第一次中東戦争の結果、難民となったのは70万人から100万人といわれていますが、その後の自然増加により、UNRWAに登録しているだけでも約397万人のパレスチナ難民がいるといわれており、その数は世界最大となっています。難民は、シリア、ヨルダン、レバノン、ヨルダン川西岸、ガザ地区の難民キャンプなどで生活しています。
難民事業本部は、シリア、ヨルダンにおけるパレスチナ難民の現状を把握し、今後の支援活動の可能性を探るため、11月14日から23日まで調査を実施しました。
1. シリア、ヨルダンにおけるパレスチナ難民の状況
UNRWAの統計によると、2003年6月現在、シリアには約41万人、ヨルダンには約170万人のパレスチナ難民がいます。このうち、シリアでは難民の約29%にあたる約12万人が、 ヨルダンでは難民の18%にあたる約29万人が難民キャンプで生活しています。難民キャンプは第一次中東戦争及び1967年の第三次中東戦争後に設立されましたが、キャンプ設立から数十年経った現在、難民キャンプといっても一見すると近隣都市と区別がつかないほど都市化が進んでいるのが特徴的です。
難民キャンプで生活していない難民は、シリア、ヨルダンの各都市で生活しています。 シリア政府、ヨルダン政府共、政府が運営する学校、大学、病院などに難民がアクセスすることを認めており、また、ヨルダンでは難民に市民権を与えていることから、難民は国民と同様のサービスを政府から受けることができます。
2.支援活動
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ヨルダンBaqa'a難民キャンプにおける食糧配給 |
支援活動はUNRWAを中心に行われています。UNRWAは、地元当局、行政機関、NGOなどを通じて活動を行う他の国連機関と異なり、自らプロジェクトを立案・実施し、パレスチナ難民への直接支援を行っており、難民は、UNRWAから教育、医療、救済・社会サービスといった基本的な援助を受けています。政府やUNRWAと協力し数多くのローカルNGO、コミュニティー団体も支援活動を行っていますが、国際NGOによる支援活動はほとんど行われていません。
日本政府もUNRWAなどの国際機関を通じた支援、青年海外協力隊員、シニア海外ボランティアを現地に派遣することによる支援を行っています。調査団は、日本政府が支援した学校、職業訓練所、コミュニティーセンターなどの視察を行いましたが、シリア、ヨルダン両国において日本の支援の認知度が非常に高いことが印象的でした。
3.今後の支援ニーズ
難民キャンプ内の学校では、出生率の増加に伴い子どもの数が増加したことにより、教室数が不足しています。医療センターでは、医療機器の老朽化が見受けられました。支援団体からは、教室の増築、医療機器の交換などの要望が聞かれました。難民キャンプ全体でいえばキャンプ内でのインフラの整備が期待されていました。
UNRWAは、UNRWAの定義に該当しかつUNRWAに登録する難民の中で援助を必要とする者に対して支援を行っていますが、これに該当しないパレスチナ人もいます。このような人たちに対しては、UNHCRなどが支援を行っていますが、十分な支援を受けているとはいえないようで、医療支援などが期待されていました。