スウェーデン
第14回難民情勢講演会「スウェーデンの難民受入政策」 難民事業本部では、2004年9月17日、駐日スウェーデン大使館公使のレナートソン・ナカミツ氏を招いて「スウェーデンの難民受入政策」の講演会を開催しました。ここに講演の概要をご紹介します。 1.移民の受入状況 (1) 20世紀の中ごろまでは移民は1%未満で多くは熟練労働者でした。1970年代初めにヨーロッパの景気後退が始まり移民労働者が減る一方、難民や難民の家族として庇護を希望する者が流入しはじめました。2001年末の統計によると、外国出身者は476,000人にのぼり、スウェーデンの人口約900万人の1/20を占めています。 (2) 2003年の難民認定申請者は31,334人、セルビア・モンテネグロ、ソマリア、イラク、ボスニア・ヘルツェゴビナなどが多く、この2,3年は毎年45%増で急増していました。難民認定者は4,631人、難民認定が拒否された者は22,656人となっています。 2.難民受入政策 (1) スウェーデン政府(以下、政府)の基本的な考え方は、基本的人権の尊重であり、迫害のおそれのある人、保護を必要としている人を人道的に保護することです。 (2) 政府の難民政策は国際的視野に立つ政策であり、国益が優先することはありません。難民問題は国連と欧州連合(EU)の枠組みの中で対処されており、政府はUNHCRと協力して世界の難民を保護しています。 (3) シェンゲン協定では、シェンゲン地域に滞在する人であれば、旅券なしに自由に移動でき、国境を越えることも可能となっています。今後は共通の査証の発給、情報の交換、移動システムの共通化等の対策が必要となるでしょう。また、大量難民への対策として難民関連の共通の基準を作るなど、EU内での協力も不可欠です。 3.難民認定の対象者 (1) スウェーデンは国連の難民条約に加盟しており、同条約に定義される者は難民として認定しています。 (2) 条約上の難民以外にもスウェーデンの法律によって認定している者がおり、次の要件となっています。
   (イ)死刑、拷問のおそれが十分にあり、保護を必要とする者 (ロ)戦争、環境災害から保護する必要のある者 (ハ)性別、ホモセクシュアルなどの差別から保護する必要のある者 (ニ)人道的に保護する十分な理由がある者(自国で十分な医療が受けられない重病の者なども含む)
(3) コソボ紛争時のように緊急に保護が必要な者で、帰還の可能性がある者には一時的に滞在許可が与えられることがあります。 (4) 最近、単身未成年者(保護者の同伴がなく入国する18未満の者)の難民認定申請が増加しています。イラクおよびソマリア出身者が多く、1/3は少女です。彼らは入国後、移民庁(Sweden Migration Board)が運営するグループセンターや青少年宿泊施設へ送られ、単身未成年者のグループとして審査されます。 4.難民認定手続の担当機関 (1) 移民庁は独立した政府機関で初動段階の担当しています。この移民庁が中心となり、国境又は国内で難民申請を受理します。 (2) ダブリン条約(EU加盟国の中で庇護申請の審査担当国を決定するための共通基準を確立した条約)に基づき、最初に入国した加盟国へ戻される者、また難民認定申請をしても入国を拒否される者もいます。他のEU加盟国に戻される者は全申請者の20〜30%になります。 (3) 身分証明書等の書類を持たない申請者は1996年に34%でしたが、現在は92%が旅券やIDカードを紛失した状態になっています。このような者は、送還先においても身元の確認等ができないことから難民認定の作業が困難となっています。そこでシェンゲン協定加盟国では、書類不所持で移動する者を扱う船会社や航空会社へ罰金約65万円を科しています。また、身分証明に協力しない申請者へは日当の減額の措置があります。 5.難民認定申請者への支援 (1) 健康診断が無料で、緊急医療や歯科治療等はわずかな自己負担で受けられます。 (2) 所持金がない申請者は、地方自治体において日当(生活費)などの支援が受けられます。 (3) 住居の確保として、親戚や知人のいる者へ補助金の1/2程度が支給され自力で住居を調達するものと、難民レセプションセンターへ入所する者がいます。センターは普通のアパートで、家族には1住居が与えられ、単身者は共同生活をします。全般的には前者ケースが多いようです。 (4) 子どもは学校へ行く義務はありませんが、プレスクール、小学校、中学校へ入学が可能です。 (5) 集団活動に参加するためのプログラムが用意されています。例えば、語学、コンピューター、手工芸、大工、洋裁など、実技が身に付くようなトレーニングです。 (6) 4ヵ月以上審査の結果を待っている者は就労することが認められています。 (7) 必要に応じて国選弁護人及び通訳の手配があります。 6.難民認定された者への支援 (1) 統合庁(National Integration Board)が、難民の地域社会への定住政策を所管しています。 (2) 難民認定された者へは、永住居住許可証(Permanent Residence Permit)の給付、住民登録、社会保障番号の給付、スウェーデンにおける社会福祉などが提供されます。 (3) 難民認定申請時に受領していた日当の資格はなくなり、地方自治体の支援が得られるようになります。補助金は一日一人あたり、234クローネ(日本円で約3,000円)です。

7.難民認定が拒否された者

(1) 難民認定が拒否された者は、母国へ帰還するか、第三国へ出国するか、異議申し出をすることとなります。 (2) 実際には難民認定が拒否された者の内95%が異議申し出をしています。外国人控訴委員会(Aliens Appeals Board)が再審査を担当していますが、何度でも異議申し出ができるため、再審査の長期化が問題となっており、不安定な状態が続くことは子どもなどへの心理的に有害となっています。 (3) 政府は改革を検討しており、2006年には外国人控訴委員会を廃止し、代わって一般の裁判所が異議申し出の審査を取り扱うことになるでしょう。また、異議申し出の回数も2回までになる予定です。 (4) 難民認定が拒否された者が、自発的に出国する際には旅費の援助があります。 8.クオータ難民※について (1) スウェーデンでは1950年よりクオータ難民を受け入れています。2003年は890人を受け入れ、2004年は1,700人を予定しています。 (2) 議会がUNHCRの要請に基づいてクオータ難民の受入数を決定し、これに見合った予算を移民庁へ配分しています。 (3) クオータ難民の審査には2つの方法があり、移民庁がチームを現地に送りUNHCRと共に候補者を審査するものと、UNHCRが準備した書類に基づき審査するものがあります。 (4) クオータ難民の制度の良い点は、審査期間が4ヵ月程度でスウェーデンに入国でき、地方自治体からの支援をすぐに受けることができるため定住促進に効果があることです。 ※定期的な受入計画や組織的な受入れに関する取り決めにより受入れられた難民。 9.難民の状況 (1) スウェーデンにおいても雇用格差は存在し、スウェーデン生まれと外国生まれでは雇用状況に差があります。2003年の統計では、定住5年以内の者の就職率は45%で、5年以上の者は61%でした。この数字は政府が期待している数字より低く、女性の就職率は更に低くなっています。現在スウェーデンは高齢化により労働力不足が予想されるため、希望は持てるとみています。 (2) 難民の定住促進とは、難民の自立を促し、社会の中で市民として生きていくことです。最近の統合庁が作成した移民問題の分析報告書によると、国や自治体レベルで定住の促進を検討する必要性があるとのことでした。
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