スペインにおける難民受入れと支援の状況
(2008年3月30日〜4月6日の現地調査)
(ページ下部より報告書全文をダウンロードすることができます)
難民事業本部は、スペインにおける条約難民及び庇護申請者等に対する支援状況を把握する現地調査を実施しました。
1.難民受入政策
スペインは移民送出国としての歴史が長く、受入国に転じたのは最近の現象です。難民については、1960〜70年代に当時のチェコスロバキアや南米諸国から受け入れたのが始まりで、当時はNGOが中心となって受入事業を展開し、UNHCRがノウハウの伝授を行うなどの役割を果たしてきました。
難民受入れの法的枠組みが整い始めたのはフランコ政権崩壊後で、1978年に1951年の難民条約を批准、同年制定の憲法に難民受入れ等について明文化されました。1984年にはいわゆる難民基本法が制定されましたが、その後の冷戦体制崩壊の影響で、旧ソ連圏からの庇護申請者が急増したことにより認定手続の濫用が増加したことを受け、1994年にスクリーニング制度が導入されました。2003年の避難民の一時保護制度の創設、翌年の外国人法(2000年制定)における特別な配慮を要する者への一時滞在許可等についての王令認可を経て大枠が整いました。
多くのEU諸国が難民の保護に重点を置くのに対し、スペインの難民受入れに対する基本方針は自立促進にあり、庇護申請中から施設入所を原則義務付けた上で、社会統合を目標に定住支援を行っている点に特徴があります。スペインの受入政策は独自の展開を見せてきましたが、一方でEUの加盟国であるという一面もあり、2005年の大量の不法移民合法化措置等に関し批判を受けるなど、EUとの関係性からも政策的に過渡期にあります。この流れを受け、2009年ないし2010年には現行法改正が予定されています。
2.難民受入制度
スペインは、難民受入制度としてUNHCRの第三国定住プログラムを導入しておらず、庇護申請手続に基づく受入れのみを行っています。
庇護を希望する外国人は、内務省下の庇護・難民事務所(OAR)、政府指定の地方警察、国境、申請者の出身国外にあるスペイン大使館等で申請を行います。審査は、スクリーニングにあたる事前審査と、難民該当性を判断する実質審査の二段階になっています。申請書類はまずOARにおいて一括して受理・不受理の決定がなされ、受理の場合は次の実質審査へ、不受理の場合は、何らかの滞在許可がない限り原則として退去命令発令となります。実質審査は、OAR、関係省庁合同庇護・難民審査委員会、内務大臣の順にかけられ決定がなされます。実質審査の審査基準は、難民条約に基づいた国内法に基づいており、審査期間は6カ月以内と定められています(実質平均は12カ月)。決定は、難民認定、補完的保護、不認定の3種類で、2006年には168人(全体の8.16%)が難民認定を受けました。同年の庇護申請者数は5,297人で、コロンビアからの申請者が2,239人と最多でした。決定に不服がある者は、決定から2カ月以内であれば異議申立てが可能で、弁護士及び通訳を場合によっては無料でつける権利が与えられています。
3.庇護申請者に対する支援
事前審査の結果、受理となった庇護申請者を対象とした政府直轄またはNGO運営の庇護申請者等受入施設が全国に計36カ所あり、原則として申請者は入所の上、支援を受けます。施設滞在期間は実質審査の決定が下されるまでの6カ月間が原則で、6カ月を経過しても決定が出ない場合には延長が認められ、最長で12カ月間滞在可能となります。施設では、衣食住、医療(含、メンタルケア)、レジャー、生活手当支給の他、語学教育、職業訓練、就職斡旋、法的支援等が受けられます。スペインでは、庇護申請から6カ月後には就労可能となることから、入所と同時に職業訓練が開始されます。また、スペイン国内に居住する6〜16歳の子どもには、国籍や滞在資格の有無に係わらず義務教育が課せられており、対象者は受入施設から最寄りの学校へ通っています。
施設に収容余力がない場合は、庇護申請者は月額400〜750ユーロ(約64,000円〜12万円)の手当の支給を受けてアパート等に居住します。但し、最寄りの施設で各種支援を受けることが可能です。
4.条約難民等に対する支援
スペインでは、庇護申請中から手厚い定住支援が開始されるため、また、条約難民等には原則として、スペイン国民と同等の権利(社会保障等)が与えられるため、条約難民に特化した支援はありません。しかし、庇護申請者等受入施設が退所者へのアフターケアを、また、NGO等が独自のサービスを提供しており、通訳・翻訳、住居探し、家賃や保証金の支払い、海外からの家族呼寄せのための申請書類の作成、離散家族の捜索等において支援が受けられます。
5.自発的帰還者、庇護不認定者等に対する支援
出身国への帰国を希望する自発的帰還者に対し、EU難民基金から一人あたり600ユーロの旅費が支給されることとなっていますが、一部のNGOが、この手当申請のための手続支援を行っています。また、庇護申請の結果、不認定となった者に対し、出身国や第三国への出国に必要な手続支援や旅費支給を行うNGOもあります。
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報告書(PDF 40.2MB)