スリランカの国内避難民 (2002年6月2日〜11日の現地調査)
漁業で生計をたてるために漁網を修理している国内避難民(於:マナーの福祉センター)
スリランカが独立したのは1948年2月ですが、1956年に政権を獲得したスリランカ自由党はシンハラ人優遇政策を実施したため、タミル人が反発し、今日まで続いているシンハラ人とタミル人の紛争のきっかけとなりました。この対立の中でタミル人の武装勢力である「タミル・イーラム解放の虎(LTTE)」が生まれ、1983年より始まったLTTEとスリランカ政府との戦闘が19年間続いています。 2001年12月に発足した統一国民党(UNP)政府はLTTEとの停戦を宣言、2002年2月にはノルウェーの仲介で停戦合意を締結し、国内避難民及び難民の支援を本格化しています。 当事業本部は国内避難民のニーズを把握し、今後の支援活動の可能性を探るため、6月2日から11日までスリランカの北西部において現地調査を実施しました。 1.国内避難民の状況 1983年に始まった民族対立に伴う戦闘により今日までに6万人が死亡し、80万人が国内避難民となり、10万人がインドのタミル・ナドゥ州に逃れました。また、多くのタミル人が世界各地へ離散しました。 2002年2月の停戦合意時点での国内避難民の数は75万人から80万人と推定されています。政府管轄の福祉センター及び親戚又は友人宅に滞在し、スリランカ政府からの食糧支援を受けている国内避難民は、国内避難民全体の83%で68万人です。その多くの人がジャフナ半島及びマナーなどの北西部に滞在しています。 スリランカの国内避難民の特徴は、特に北部地域の国内避難民が避難を複数回繰り返し、この間に生活の基盤を失ってしまっていることです。 2002年2月の停戦合意後、国内避難民の出身地への帰還が始まっています。地雷の除去の状況が明確ではなく、地雷による事故が起こっていることからUNHCRは帰還を奨励していませんが、スリランカ政府が安全宣言をしている地域もあり、自発的な帰還は始まっています。 2.支援活動 現在は停戦合意であり和平合意には達していないため、今後の和平プロセスの進捗状況及び地雷の安全性等を慎重に見極めて支援活動を実施する必要があります。 スリランカ政府は今後1年以内に20万人の国内避難民の帰還を計画していますが、帰還民に提供する資金が不足しています。 UNHCR(国連難民高等弁務官事務所)、WFP(世界食糧計画)、ADB(アジア開発銀行)等の国際機関は国内避難民に対して、帰還に伴う緊急救援物資の配給(UNHCRは自主帰還した人に対して食糧以外の救援品を配給)と同時に、帰還先において独立して自活するためのさまざまな支援活動を実施しています。具体的には帰還先におけるシェルター建設、給水、医療、教育、農業支援、小規模な道路補修・かんがい設備の補修、所得創出等です。 3.ニーズ等 スリランカ政府支配地域のマナー及びワウニアを調査したところ、今後帰還民を受け入れる村ではシェルター、給水、医療、教育、農業用具、農業生産支援等の支援活動が必要です。 また、キリノシチ地域(LTTE支配地域内)及びジャフナ地域(現在はスリランカ政府支配地域)においては、スリランカ政府支配地域にくらべて、道路状況、病院、学校の校舎等が破壊されたままで、今後すべての分野で支援が必要のように見受けられました。 さらに、福祉センターに滞在している人で帰還の時期の様子を見ている人、土地を所有せず帰還の目処が立たない人等は現金収入を得る機会がほとんどありません。 4.今後の支援等 スリランカ政府は1990年代より国内避難民の支援を実施(福祉センターの管理運営、政府が指定した村への定住等)していましたが、2002年2月の停戦合意後、国内避難民の帰還数が劇的に増加しているため支援活動を拡大しています。また、国際社会及び国連機関等も上記のような支援活動を今後さらに拡大する計画で、NGO等のパートナーを求めています。さらにLTTEも最近は国際機関と対話をするなどLTTE支配地域内の支援活動に積極的です。 現在は帰還に伴う緊急救援及び地雷回避教育が必要と思われますが、帰還後の自立支援としては農業生産の支援、所得創出の支援等が考えられます。緊急救援活動でも自立支援、社会復興につながるような活動が期待されています。 また、現在福祉センターに滞在し、現金収入のほとんどない人、土地を所有せず帰還の目処が立たない人等に対しては、所得創出活動、職業訓練も必要と思われます。 さらに、国内避難民は民族間の対立から発生しており、恒久的解決にはコミュニティー再建のための民族共生支援活動及び長年にわたる戦闘・避難生活によるトラウマへの専門的ケアも必要であると国際機関等はいっています。
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