タイ
タイにおけるミャンマー難民の状況と支援活動 (2006年2月12日〜19日の現地調査)

 難民事業本部はタイにおけるミャンマー難民の状況および支援活動を把握するため現地調査を実施しました。

1.ミャンマー難民の状況 (1)タイ国内には9カ所の難民キャンプがあり、2006年1月末の難民の総数はTBBC(Thailand Burmese Border Consortium)の資料によると143,531人です。これはTBBCの食糧等の援助を受けている人数であり、UNHCRが関与していないシャン族の難民キャンプ(滞在者数607人)も含みます。また、UNHCRによる難民の登録者数は126,440人で、そのほか登録手続き待ちは10,636人います(2006年3月6日)。 (2)現在も難民キャンプには多くの難民が流入していますが、キャンプの敷地を拡張することができないため、過密で、特に安全な水の確保は厳しい状況となっており、衛生事情は劣悪です。 (3)難民キャンプはタイ政府内務省が管轄していますが、難民自身はキャンプ委員会を設立し、議長、書記官のほか、食糧・配給委員会、水・衛生委員会、保健・医療委員会、教育委員会、図書館委員会、キャンプ内問題委員会を組織して自治管理をしています。 (4)難民はキャンプの外へ出ることが認められておらず、基本的にはNGO等から提供される支援に頼って生活しています。 (5)以前タイ政府はキャンプ内において職業訓練、タイ語・英語教育を行うことを認めずにいましたが、2年前からいずれも認めるようになりました。 (6)難民が指摘している問題は、キャンプ内で10年間の教育を終了すると、より高度な教育を受ける機会や、雇用の機会がなく、将来の展望が持てない状況にある点です。これに関してUNHCRとCCSDPT(Coordination Committee for Services to Displaced Persons in Thailand)は、(イ)職業訓練と収入を得る機会の提供、(ロ)10年間の教育終了後に、より高度な教育機会の提供、(ハ)キャンプ外での雇用機会の提供の3つについてタイ政府へ提案をしています。 2.タイ政府の難民政策 (1)タイは難民条約に加入していないため、1984年からミャンマーを越境してくる難民をDP(Displaced Person)として扱い、難民キャンプに受け入れていました。しかし、タイへの定住は認めず、恒久的解決策として帰還を奨励していました。 (2)第三国定住にかかるタイ政府の対応 タイ政府は、2004年の初め頃にアメリカおよびUNHCRとミャンマー難民の第三国定住について話し合いを始め、当初は都市部(バンコクおよびメーソット)に在住するPerson of Concern(POC;UNHCRが認定した援助対象者)を対象にしていましたが、2005年7月になると、キャンプ滞在者も対象に含めるようになりました。これは、第三国定住を促進した場合、第三国定住を目的とする新たなミャンマー難民が流入するのではないかとの懸念から、タイ政府が認めずにいたものを、難民の流入が続いている現在の状況を踏まえて政策転換したためです。 なお、都市部在住のPOCを含め、ミャンマーから流入する不法滞在者の難民登録の問題については、2002年からタイ政府とUNHCRとの間で協議が行われており、2005年になるとタイ政府はUNHCRが主張する基準に同意し、現在はPAB(Provincial Administration Board)による認定作業を進めて、キャンプ滞在の認定者数を大幅に増やしています。 3.第三国定住の状況

(1)アメリカ (イ)2004年からタイに滞在するラオ・モン族15,000人(POCではないグループ)を受け入れるほか、2005年は都市部在住のミャンマー難民(POC)を中心に1,313人を受け入れました。 (ロ)2005年末には、タム・ヒン難民キャンプに滞在するミャンマー難民の受け入れを公表し、希望すれば約9,000人全員を受け入れるとしています。なお、UNHCRの調査では89%が希望しており、難民事業本部の調査団が現地で聴取したところでは、仏教徒を中心にアメリカ行きを希望しない難民もいるようでした。

(2)オーストラリア オーストラリアでは、難民自身が個別にオーストラリア大使館に難民申請をしています。2005年は288人の難民を受け入れました。

(3)その他の欧州諸国等 スウェーデン、ノルウェー、フィンランド、デンマーク、英国、カナダ及びニュージーランドも第三国定住として受け入れを実施しており、2005年は合計785人を受け入れました。2006年は欧州諸国がメーソット近郊の難民キャンプに滞在する難民を2,000人程度受け入れると予想されますが、メーソット近郊の3難民キャンプに約75,000人が滞在しているため、大多数の難民は引き続きキャンプでの滞在が続くことになる見込みです。

4.難民キャンプにおけるシャンティ国際ボランティア会(SVA)の図書館活動

(1)SVAは、1999年の難民事業本部の現地調査の結果、2000年にメーホンソン県にある2カ所の難民キャンプで児童を対象とした図書館活動を開始しました。2005年までに7カ所の難民キャンプで22館を運営しています。図書館では絵本の閲覧と貸し出しを行っており、すべての本がカレン語、ビルマ語に翻訳してあります。さらに図書館が伝統文化の継承の拠点、特に青少年の民族のアイデンティーを継承できる拠点となるように活動を広げています。 (2)第二段階である2004年以降は、児童向けの図書館活動に加えて、伝統楽器の学習、絵画等の情緒教育、青少年および大人を対象とした図書館活動、高齢者のための活動、民話の聞き取り・民話の冊子作成等、言葉・文化の継承の活動、世代間の交流活動にも力を入れており、図書館が図書館活動とともに、コミュニティーセンターとしての役割も果たしています。 (3)2006年は、メラウ難民キャンプに新たに1カ所の図書館を開設(同キャンプ内の図書館は計4カ所)するほか、再統合・移転予定のキャンプにも2カ所の図書館を開設する予定です。 (4)日本政府は、SVAの難民に対する教育プログラムを支援するために約1,200万円の小規模無償資金協力の契約を2006年3月1日付けで取り交わしました。
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