チャド共和国内におけるスーダン難民
(2004年5月29日〜6月7日の現地調査)
難民事業本部は、チャド共和国内におけるスーダン難民の状況・支援状況を調査するため、2004年5月29日から6月7日までチャドでの現地調査を実施しました。
1.スーダンの状況
(1)発生の背景
(イ)2003年2月にスーダン西部のチャドと国境を接するダルフール地域で、政府系民兵(注1)と、スーダン解放軍・運動(注2)、正義・平等運動(注3)の反政府勢力が対立し、2003年末の時点で約60万人の国内避難民が発生、約7万人が西隣のチャドへと国境を越えて流入しました。
(ロ)2004年に入るとアフリカ連合(AU)が停戦監視機構の設置など紛争解決に向けて活動しており、4月にはスーダン政府と反政府武装勢力との間で45日間の停戦協定が合意されました。そして5月にはさらに45日間が延長されています。しかし、難民のチャドへの流入は続いています。
(注1)スーダン政府から支援を受けているとされるアラブ系民兵組織ジャンジャウィード。
(注2)SLA/M(The Sudan Liberation Army/Movement)。2004年5月末に政府と停戦合意をしたSPLAとは異なる組織。
(注3)ダルフール地域のザガワ族を中心に1999年頃設立された勢力、JEM(Justice and Equality Movement)。
(2)難民の状況
(イ)スーダン難民は2002年までは2万人以下で推移していましたが、2003年4月頃からはチャド東部地域に多数流入し始め、9月に65,000人、2004年6月初めに調査団が現地を訪問したときは18万人を超えていました。
(ニ)調査団の訪問時、7ヵ所の難民キャンプに登録された難民は77,178人、チャド側の国境付近に留まっている難民は105,431人で、難民の多くは、女性、子ども、老人でした。
2.スーダン難民に対する支援活動
(1)UNHCR(国連難民高等弁務官事務所)
(イ)UNHCRは2003年11月と12月に緊急救援2チームで支援活動を開始しています。チャドとスーダンとの国境地帯は自然環境が厳しく、またスーダン側からの越境攻撃も受けています。UNHCRは難民の安全確保のためにスーダンとの国境から離れた場所に難民キャンプを設けました。そして国境付近に留まっている難民を難民キャンプまで移送する活動を6月の雨期に入る前に緊急に進めています。
(ロ)調査団が訪問した折り、UNHCRは7ヵ所の難民キャンプを開設し、3ヵ所の難民キャンプを設営中でした。また、さらに数ヵ所のキャンプを設営するための土地を確保するため、チャド政府と話し合いをしています。
(ハ)UNHCRは基本的な緊急救援に加えて難民保護の観点から、難民を安全なキャンプに移送し、スーダン側からの越境攻撃に対する保護、女性・子ども・老人等の社会的弱者の保護、自力で難民キャンプへ到着する難民の保護、性差暴力からの保護等に重点をおいています。
(2)WFP(国連世界食糧計画)はUNHCRと協力して難民へ食糧支援を実施するほか、難民を受け入れている地元住民へも食糧支援を実施しています。
(3)チャド政府は、国際社会がスーダン難民を支援する以前より地元コミュニティーで難民を受け入れ、支援活動を実施していました。現在はUNHCRの資金的支援を受け、国境付近と難民キャンプ内で難民の登録業務を実施しています。
(4)多くの国際NGOが難民キャンプの設営・管理、保健医療、公衆衛生等の分野でUNHCRと事業実施契約を結び、活動を実施しています。また地元のNGO1団体も、3ヵ所の難民キャンプでキャンプの管理を担当しています。
3.難民キャンプ
調査団は3ヵ所の難民キャンプを訪問し、また国境付近に留まっている難民の状況を視察しました。
(1)フラチャナ難民キャンプ
(イ)このキャンプは10,000人程度の収容能力がありますが、調査団が訪問したときはすでに13,000人を超える難民が登録されており、登録の順番待ちをしている人がいました。
(ロ)医療関係者の話によると難民の健康状態は悪くありませんが、水の供給はUNHCRの基準に達しておらず、また教育活動、コミュニティー活動も開始されていないとのことです。
(2)ミレ難民キャンプでは、チャド側の国境付近より移送された難民がキャンプに入所する光景を見ることができました。108家族317人が数台のトラックで隊列を組んで移送され、キャンプへ到着すると水を飲んで一休みし、乳幼児の栄養状態のチェック、難民登録、全員の健康状態のチェックをうけます。その後、日用品、食糧などの支援物資が支給され、1家族ずつテントでできたシェルターへ案内されました。入所の手続きは1時間程度で終わり、スムーズに実施されていました。
4.今後の課題
(1) 毎日数百人の難民がスーダンからチャドに越境をしているようで、今後の難民数の増加が予想され、それに伴う支援が充分実施できるか懸念されます。
(2)難民受け入れ地域は道路事情が悪いため、難民キャンプへのアクセスが困難であり、さらに雨期が始まると道路によっては車両による通行が困難になります。
(3)難民の受け入れ地域では、地元住民の数を超える難民が流入しているため、環境に与える影響が懸念されています。
(4)難民キャンプ内での本格的な支援活動が開始されていない難民キャンプもあり、水の確保、コミュニティーサービス・初等教育の提供、性差暴力対策、トラウマ対策、さらに雨期対策(トイレ整備、感染症の予防)などが必要と思われます。
⇒ 詳しくは報告書をご覧ください(PDF 284KB)