パキスタン北西部におけるアフガン難民の窮状
(2001年2月11日〜18日の現地調査)
1. 内戦によるアフガン難民の流出
アフガン難民は1990年に最大の620万人に達し、半数以上の難民がアフガニスタンに帰還したものの、現在約256万人の難民がイラン(約133万人)、パキスタン(120万人)等に滞在しており、これは世界最大の難民数です(1999年末UNHCR調べ)。1979年に最初のアフガン難民が脱出してから既に20年以上が経過し、最も古い難民の1つでもあります。パキスタンに滞在するアフガン難民の内83%(約100万人)が北西辺境州に滞在しています。難民キャンプはペシャワールとクェッタの周辺に集中していますが、キャンプは外界からは閉ざされておらず、アフガン難民は仕事を探すためや、商売を始めるために難民キャンプを自由に出入りすることができます。これらの難民は自立した段階に入ったとして、医療、職業訓練以外は特別の支援は行われていません。他方、アフガニスタンでは、94年に出現したタリバーンが全土の約9割を掌握するに至りましたが、内戦は現在も継続中で近年は難民帰還もあまり進んでいません。
2. 干ばつによるアフガン難民の流出
2000年以来この地域に新たな難民が押し寄せています。その数は2001年2月までに15万人に達しました。なぜなら、アフガニスタンは2000年から30年ぶりの大干ばつにみまわれており、家畜を失ったり田畑を耕せなくなったりして生活できなくなった人々のうち、ある者は国外へ出て難民となり、またある者は自国内で避難民となったのです。20年以上続く内戦によりアフガニスタンでは生活基盤が破壊し尽くされており、そのために干ばつによる影響がより深刻になったと言われています。
3. ジャロザイ難民キャンプの状況
新たに流入した15万人の難民のうち約8万人がペシャワールから南東に35km離れたジャロザイキャンプに滞在しています(2001年2月現在)。ジャロザイキャンプは既にあった難民キャンプの隣接地を難民たちが自発的に占拠してできあがったキャンプで、1〜1.5平方キロの土地にテントがひしめき合うように並んでいます。難民自らが調達した薄手のビニールシートで作られた粗末なテントでは氷点下の冬の寒さを防ぐことはできず、雨期への備えも十分ではありません。
食糧配給はパキスタン政府が許可していないため、難民が自力で食糧を手に入れなければなりません。わずかな小麦粉を焼いたものを1日1回食べるだけという難民もいました。また水の供給は1日1人当たり2〜3リットルにすぎず、仮設トイレの数も全く足りていない状況です。雨期の開始とともに更に衛生状態が悪化することが心配されます。医療を担当しているNGOによると、貧しい食糧事情による子どもの栄養失調、寒さによる気管支系疾患(風邪、肺炎など)、劣悪な衛生環境のための下痢等が多い状況です。
パキスタン政府は、水供給、衛生、医療分野でのみNGOの活動を認めています。これは、救援活動を強化すると難民を更に引きつけることとなると同政府が考えているからだと言われています。医療ではBHU(Basic
Health Unit、パキスタン)とMSF(国境なき医師団、オランダ)、仮設トイレ設置についてはIRC(International
Rescue Committee、アメリカ)とMSF、水の供給についてはACLU(Afghan Construction and
Logistic Unit、パキスタン)が活動していますが、人手が足りない状況です。また、UNHCRは、難民を状況の良いシャムシャトゥーキャンプなどに移送したいと考えていますが、パキスタン政府が難民の新規登録を禁止したことと、移送先の収容能力が限界に近づいていることにより、作業が進んでいません。
4. 今後の見通し
古くからいる難民の人々は自立して生活してはいるものの、生活の実態は苦しく、若い人々の多くは、イスラマバード、ペシャワール、カラチなどの大都市に流出し、スラムを形成している例もあります。難民は自分たちが見捨てられた存在だと感じていますが、アフガニスタンで和平が達成された暁には、これらの人々は国の再建を担うこととなります。そこで、彼らには職業訓練等の支援が必要になっています。他方、パキスタン政府が国境を閉鎖し、難民の新規流入を阻んでいるにもかかわらず、例えばジャロザイキャンプには1日平均20〜30家族が新たに到着しています。新たな難民を発生させないために、アフガニスタン国内での支援活動も国際機関やNGOにより行われています。アフガン難民問題を巡っては、アフガニスタン国内とパキスタンなどの周辺諸国の双方において、支援活動がバランス良く実施される必要があります。将来のアフガニスタン復興のため、アフガニスタンではインフラ整備も含めて生産機会を提供するための支援が、また、周辺諸国では教育や職業訓練などの支援が極めて重要になるでしょう。