ボスニア・ヘルツェゴビナへの帰還民
(2000年10月2日〜6日の現地調査)
ボスニア・ヘルツェゴビナで人道支援活動をしている日本のNGO「JEN」のご協力を頂いて、首都サラエボとその近郊及びサラエボ南東約70キロに位置するゴラジュデを回り、帰還民の現状をみる機会を得ました。サラエボもゴラジュデも、90年代前半、民族間の血で血をあらう激しい戦闘が行われた場所です。デイトン包括和平合意から5年近く経った現在も市内には銃撃の痕跡が残るビルが残っています。
ボスニア・ヘルツェゴビナでは、90年代前半の戦争で20万人もの死者、200万人以上の難民・避難民が出ました。これまでに約66万人が帰還したそうですが、多くの人がまだ戻れずにいます。
帰還を阻む大きな要素としては政治の不安定、民族間の軋轢、雇用、治安・安全の問題等が挙げられます。ボスニア・ヘルツェゴビナは、80年代を通じて経済危機に見舞われていましたが、戦争の影響で経済は壊滅的打撃を受けました。日本を含む主要各国の復旧・復興支援によりインフラ面での改善は見られますが、経済運営はまだ正常とはほど遠いという状況です。帰還民に対する家屋の復旧等の支援は行われていますが、就職先がないのでは帰りたくともなかなか帰れないということだと思われます。戦争による心の傷も深いものがあります。未処理の地雷も全土にわたり数万個残存しています。100万個という人もいます。
このような状況において、帰還を促進し、帰還民の定着を図るためには、先ずは広範囲な復興・再定着支援、雇用の創出等が必要だと思われますが、家屋の修復のみをとっても、既に帰還したか又は帰還予定の人に対するニーズの20%程度しか満たされていないということです。
そのような状況の中で明るい材料もあります。UNHCRによれば、今年に入ってからの帰還の進展は著しいものがあり、困難と見られていた地域への帰還や若年層の帰還など、今までに見られなかった現象が見られるそうです。その背景として平和安定化部隊(SFOR)、上級代表事務所(OHR)、欧州安全保障協力機構(OSCE)等国際社会による治安改善や環境整備の努力等があると指摘されます。ボスニア・ヘルツェゴビナが国家として立ち直っていくためには当分国際社会の支援が必要とされるように思われます。