東チモール
東チモール避難民の帰還と復興 (2000年2月28日〜3月2日の現地調査)
 1999年は、国際社会が、二つの大きな地震と二つの大きな難民・避難民問題に揺れました。地震はトルコと台湾で、また問題はコソボと東チモールで発生しました。これらの出来事は事前には予測できない突発事件であり、緊急支援に当たった国連機関やNGOは、活動資金や人員の配置などで予定外の対応を迫られました。海外支援には大きく分けて開発支援と人道支援がありますが、前述の四つの場合はいずれも人道支援の範疇に入ります。人道支援を活動目的とする日本のNGOの中には、この全てに支援を行ったところもありました。しかし、東チモール問題は、これらの出来事の中でも最後に発生したため、支援を行う余力がないNGOもあったのではないかと思われます。東チモールの情勢はこれからどう展開していくのか、アジアの同胞である私たちにとっても気になるところです。難民事業本部は、2月28日から3月2日にかけて、日本のNGOのメンバー3人の参加を得て、現地調査を行いました。
1. 帰還者に対する緊急支援 99年の民兵組織による騒乱事態によって、23万人の住民が西チモールに避難した他、東チモール内の山岳地帯に避難した人も多くいたといわれています。現在は、大量の帰還はありませんが、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)の支援によって散発的に帰還が続いているので、帰還者のために、住居を確保したり修復するシェルター支援や、食糧援助が続いています。ただし、避難民の多くは、今後数ヵ月の間に帰還する可能性もあると見られており、UNHCRは遅くとも次の雨期が始まる12月頃までには、シェルター支援を完了したいと考えています。リキサ県における日本のNGOによるシェルター事業は6月に終了の予定です。また、世界食糧計画(WFP)によれば、年央には作物の収穫期を迎えるので、それまでには緊急の食糧配布は終了するとのことです。従って、調査時点では、緊急支援の必要性はまだ認められましたが、今後は東チモールの復興に向けて、その他のニーズに対応する必要性が出てくると思われます。 2. 復興と独立に向けての支援 東チモールでは、緊急支援段階と開発支援段階の区分けははっきりしません。避難民の大量帰還時を緊急段階とすれば、すでにその段階は終わったと考えてもよいのですが、少数であれ帰還が続いているため、帰還支援、シェルター支援、食糧配布は前述のようにまだ続いています。他方、復興に向けての援助も始まっています。ニーズ面で言えば、緊急支援のニーズと、開発ニーズが混在しています。援助サイドで言えば、UNHCR、WFP、緊急医療専門のNGOが今後退き、国連開発計画(UNDP)や国連児童基金(UNICEF)、世界銀行等の国際援助機関が、また、日本のJICAなど各国の援助機関が活動を本格化させるものと思われます。 現地では、復興に向けて、インフラ整備、医療、初等教育、識字教育、農業支援、雇用創出など広範な援助が必要とされています。これは、東チモールが騒乱前の状態に復帰するだけでなく、インドネシアの辺境地域としての地位から抜け出して、独立の国家になる過程にあるためです。 各分野のニーズを概観してみます。インフラ整備は、暫定統治の任に当たる国連東チモール暫定機構(UNTAET)が、また完全独立後は正統な政府が、UNDP、世銀をはじめとする多国間援助や、世界各国からの二国間援助を得て実施することになると思われます。 医療では、マラリア、デング熱、結核が顕著であり、山岳地帯や僻地へのアクセスが困難なため、巡回診療のサービスが必要です。医療従事者も不足しています。 教育では、騒乱時に多くの学校が焼失しているので、修復が急務であるほか、教材が不足しています。教員への生活支援も緊急の課題で、現在WFPとUNICEFが食糧と現金をそれぞれ補助しています。国連関係者によれば、住民の非識字率(男42.4%、女56.6%)は高く、成人への識字教育も重要な課題になります。 農業では、トウモロコシ、芋、豆類が住民の主食です。騒乱事態の中で耕作が一時放棄されたため、WFPが種の支給を行っています。他方、インドネシア統治時代に導入された稲作は、現地の需要を満たすほどにも至らず、また、コーヒー栽培は、ポルトガル統治時代の名残の栽培地で農民が採集していますが、ロースト等の加工には至らない状況にあります。今後、生産性の向上、商品価値の向上、販売方法の確立など、企業化努力が必要です。 なお、女性の自立支援については、現地住民によるボランティア活動が始まっていますが、現地の社会は男性中心の社会であるため、実施の際には住民との対話を深めつつ慎重に進める必要があるでしょう。 3. 東チモール支援の特徴 すでにお気づきと思いますが、東チモールへの支援は、緊急支援に携わる場合も、開発支援に携わる場合も、自ら東チモールの国造りに参加することになるわけで、その点でやりがいがあるといえます。そのため、NGOが活動する際には、UNTAETや、UNDPなどの援助機関と情報交換を行うことが求められています。同時に、国を開発することは、当然のことながら広範な分野に及び、かつ長期間を要するため、資金や人員面で制約のあるNGOが東チモールでプロジェクトを立ち上げる際には、受益者の特定、分野の選別、援助期間の設定に、格別の注意を払う必要があります。現場で活動中の国連関係者やNGO関係者は、口をそろえて、援助を実施する際には周到な準備が必要であると述べていました。 援助実施上の困難として挙げられた点を述べてみましょう。まず、港湾施設、道路などインフラ施設の未整備が挙げられます。これに加え、運送車両の不足によって、調達した物資が予定どおりに到着しないことがよくあります。その他、宿泊施設、通信手段、車両の修理施設も不足しています。次に、通訳を含め、現地のスタッフが足りません。さらに、現地住民の社会観念や価値観が異なることがある点を念頭に入れておく必要があります。例えば、社会的弱者についての考え方、女性の自立についての考え方は、現地特有のものがあるようですし、また、現場では、自助努力を促す際に困難を感じることもあるとの声を聞きました。 これらの障害は、入念な準備と、実施の際のきめ細かな配慮によって克服可能と思われます。冒頭に述べたコソボの場合と違って、東チモールの場合は、独立への政治的進路がはっきりしています。治安状況も大きく改善しています。みなさんの中で、東チモールに支援をしたいと思われる方は、現地の事情に精通している経験者の意見を参考にしてください。当事業本部にご一報いただいても結構です。
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