難民事業本部では、日本のNGOのスタッフを対象に、2004年2月24日(火)、25日(水)に「難民支援活動ワークショップ」を開催しました。今回は、フランスの難民支援NGOSSAE(Service Social d’Aide aux Emigrants)のテクニカルプロフェッショナルアドバイザーであるマギー・ペルランさんを講師にお話いただきました。
マギー・ペルランさんには、フランスにおける難民の状況について寄稿いただきましたのでご紹介します。
フランスにおける庇護申請者と難民の権利
NGOSSAE(Service Social d’Aide aux Emigrants)
テクニカルプロフェッショナルアドバイザー M.ペルラン
フランス政府は現在、庇護(難民認定)権をめぐる改革に着手しています。この改革の目的は、手続期間の長さと「庇護(難民認定)申請者」(以下、申請者)の宿泊コストを改善すること、難民条約または補完的保護に伴う手続きを一本化すること、そして認定基準を改善すること(出身国で受けた迫害の原因に関する基準を撤廃する等)です。これはフランスが1950年に難民条約に加盟し、特別行政機関(OFPRAiおよびCRRii)を設けて以来、前例のない規模の改革となっています。
フランスでは、1950年に早速OIRiiiと政府との間で協定が結ばれ、移民援助福祉サービス(SSAE)が難民の社会福祉に関する支援を担うこととなりました。しかし、一般的な権限はSSAEに独占的に与えられたわけではなく、他のNGOも行っています。具体的にはFTDA(France Terre d’Asile)による宿泊施設の提供、Cimadeによるフランス語の習得、フランス赤十字社による空港での受入れ、カリタス・インターナショナルによる緊急援助等が挙げられます。
宿泊施設
申請者と難民に対する宿泊施設提供の特別措置は、1970年代から徐々に実施されてきており、2003年現在、フランスに到着したばかりの申請者と宿泊場所のない難民は、「ホームレス」を対象とした施設に頼らねばなりません。こうした緊急施設は宿泊のみで、原則として食事の提供はありません。宿泊期間は一定ではありませんが、概して短期です。そのほか、申請者が家族の場合は、ホテルへの宿泊という緊急支出が認められる場合もありますが、ニーズに対しては未だ不十分な対応が続いています。
現在、Le dispositif National d’Accueil が、フランスの各地に難民の統合と語学研修を目的とした「難民受入センター(定員1,000名)」と、申請者に社会福祉援助を提供する「庇護申請者受入センター(2003年現在で定員14,000名)」を運営しています。対象者はセンター入所を希望するか否かを選択することができます。しかしLe dispositif National d’Accueilは、申請数の多さ、手続き期間の長さ、そして一般的な福祉宿泊施設の不足といった状況から依然として不十分なものとなっています。
2003年末、フランス政府は、フランスへの到着時から庇護申請が却下された場合の国外退去までの間、申請者を継続して援助するという意向を表明しました。この意向は、ここ数ヵ月の間に宿泊施設の定員数が増加し、またその場所も全国各地に広がるという形で具体化されています。新たな原則として、地方ごとのニーズを考慮し、また、宿泊者の流動性を回復するよう留意しながら、国全体の定員の70%について地方レベルで宿泊割当の決定が行われるようになります。こうした措置の調整は、申請の手続き期間の短縮と連動して国レベルでも実施されます。
医療
フランスでは、「最も貧しい人々」を対象とする公共サービスがあり、申請者も直ちに社会保障の一制度である全医療保障制度(CMU)への加入が認められ、基礎的な医療保護を受けることができます。申請日がこの資格の発生日となります。
しかし、この制度ではカバーされない費用(入院費用等)もあるため、補完的保護に頼らなければなりません。配偶者と子どももこの対象となります。
条約難民は社会保険に加入します。原則として、被保険者は費用を前払いすることはありません。しかし、被扶養者(家族)の身分証書が問題となり手続きが進まず、福祉サービスの介入が必要となるケースが多発しています。
情報提供の体制、法律的支援、諸権利へのアクセス
Le dispositif National d’Accueilの施設に入所している、または専門的な福祉サービス機関が支援している申請者と難民を除くと、この分野に関する対応は立ち遅れています。食事や緊急宿泊施設等の基本的なニーズに対して、一時的な対処を優先する方向に関係各所の関心が向けられており、庇護に伴う継続的援助は二の次となっています。各NGOは、この分野における公共サービスの不備を補填するため大きく貢献しています。庇護(難民認定)申請の提出までに要する期間の長さと、手続期間の長さ(2年以上にわたる場合もある)が、こうした機能不全の大きな要因となっています。
2001年に受入手帳の交付という措置が講じられました。これは国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)、内務省、そしてある難民保護団体によって作成・記録されるものです。
UNHCRの代表団とフランス庇護権連絡会(Coordination Francaise pour le Droit d’Asile, CFDA)に属する約20団体が協力して、庇護(難民認定)に伴う権利の保護に関する意見交換と、難民支援の業務にあたる地方レベルの担当者の養成を行っています。
語学研修
難民認定を受けた時点で、難民には10年間の滞在許可が与えられ、労働と、研修・統合施策の適用が認められます。語学研修の期間はレベルにより異なり、最高800時間までとなっています(語学学習、各職業を取り巻く環境の把握、就職活動の方法、職業訓練)。ある1団体が語学研修の支援を担当しており、難民受入の担当者に対して助言を行っています。
2003年4月に、フランス政府は正規に滞在している外国人の統合を目指す一連の施策を講じると発表しており、したがってこの仕組みは現在変更過程にあります。しかし難民に特有なニーズについては切り捨てられる傾向にあるようです。特に語学に関しては、研修時間が削減されています(個々により2時間から400時間まで)。
難民の身分証書
OFPRAは難民の身分証書を管理しており、難民の出身国が発行した身分証書の(身分証書の原本がない場合は庇護申請書類に基づき)再作成の業務を担当しています。OFPRAが作成した各種証書と文書は公式証書と認められ、難民とその家族はこれらを用いて日常生活上の行政手続きを進めることができます。結婚、子の出生といった家族構成に関する変更がフランスで生じた場合、条約難民はフランスの身分証書管轄部局に届け出ます。難民はフランス国民に準じて取り扱われますが、家族構成に関する変更がフランスでなく外国で生じても、必ずOFPRAに通知する義務を負っています。
難民の社会権
難民は社会権を付与されており、特に疾病・出産保険による保障、家族給付の受給、収入がない場合の社会復帰最低所得保障等が認められています。難民には10年間の滞在許可証が発行され、更新が可能です。
金銭的援助
Le dispositif National d’Accueilが運営する施設に入所していない申請者に対しては、365日間、低額の生活費が支給されますが、手続きに要する期間が長期にわたることもあり(通常1年以上)、これだけで自活することは不可能です。
公的資金による難民への特別援助手当はSSAEが管理しており、特別な状況にある場合、例えば一般法に基づく給付の開始を待つ間、家族の呼び寄せ時、そして初めて住宅に入居する際に、社会福祉的側面からの評価を行ったうえで、給付が認められます。しかし同手当は補足的性格のものでしかなく、この制度だけで現実に尊厳ある生活を送れる状況にはありません。
難民の家族の呼び寄せ
難民は、家族(配偶者と未成年の子)の呼び寄せに対して特別手続きの適用を受けられます。1992年以降、UNHCR、SSAE、そしてOIMivの間で締結された協定によって、呼び寄せにかかる旅費の一部が負担されています。2003年からは、フランスの行政当局がヨーロッパ諸国の共同出資を得てこの負担を段階的に引き継いでいます。また、家族には、難民と同様にフランスでの諸権利が与えられます。
また、各種国際協定に照らしても、家族と離別して庇護を申請する未成年者に対する配慮は重要となっています。この点は国際福祉サービス機関、特にSSAEにとっては、業務の主軸をなす優先事項です。というのも、移民をめぐる現状においては、こうした未成年者は特に脆弱な立場に置かれており、特別のニーズが発生しているからです。
フランスの庇護の現状
ヨーロッパの中央に位置するフランスは、移民の流入の規制を優先事項とする一方で、1999年アムステルダム条約が批准されてから、申請者の受入条件、各種手続き、難民条約または補完的保護に基づく難民の定義の解釈、といったヨーロッパにおける庇護政策を統一化する作業に参加しており、自国を離れ受入れの地を求める人々に対して、庇護へと通じる道を魅力的なものとしないようにハードルを高くすること、そして庇護申請を却下された人々を送還することの方に傾いているようです。
しかし、ヨーロッパにおける庇護申請の件数はここ数年間増加していません(1999年に387,000件、2000年に391,000件、2001年に388,000件、2002年に381,000件)。フランス庇護権連絡会はこうした流れに警告を発し、活発なパートナーシップの中で、担当諸機関と連携しつつ力を尽くしています。
2003年に発表された、フランスに「永住することとなった」外国人に対する新しい統合政策の具体案として、対象者とフランスとの間で締結する「受入・統合契約」が提案されています。この契約には双方の義務と給付内容が含まれます。この契約は難民も対象としていますが、保護の必要性が高い人々に特有なニーズは重視されていません。